【社説】原子力最大活用 安全徹底しエネ自給目指せ

岸田文雄政権は脱炭素社会実現に向けた基本方針をまとめ、原子力について「最大限活用する」と明記した。原発の建て替えや運転期間延長も盛り込んだ。安全策とその点検をさらに徹底してきめ細かい原発政策を遂行することで、エネルギー自給の契機になることを願う。

再稼働問題がハードル

基本方針は東京電力福島第1原発事故以来の政策転換で、ロシアのウクライナ侵攻で緊迫化するエネルギー情勢を受け、その安定供給の確保と脱炭素が目標となる。意見公募を経た上で、年明けに閣議決定する。

方針には「原則40年、最長60年」と定めた運転期間を見直し、原子力規制委員会が了承した「60年超」運転を可能とすることも記した。安全点検を続けながら運転を行うことは、運転期間だけを目安にした延命より、安全性追求において理に適っていると規制委は認めたわけだ。

同委委員長の山中伸介氏は就任時から「運転期間は利用政策側が判断するもの」、規制委は運行の管理など「規制側の制度設計」に腐心することを宣言していた。規制委の今回の決定を評価したい。

方針はまた「(原子力を)将来にわたって持続的に活用する」としたが、いくつか越えるべきハードルがある。その一つが再稼働問題。33基ある原発のうち、14基は再稼働済みか再稼働のめどが立っている。しかし世界一厳しいと言われる規制委の安全審査に合格したが、地元の同意が得られない3基を含む19基は再稼働の見通しが立っていない。岸田首相は今後、再稼働が未定の地元に直接足を運ぶなどして、安全審査の結果を強調し、再稼働に向け信頼を勝ち取らなければならない。

福島第1原発事故以前、原子力委員会は「通常の事業所で起こるような小さな事故でも許さない」とばかり、原発の「無謬性」を発信し、ややもすれば地元住民の原発に対する不安をかえって高めるような風潮すらあった。住民らが支える地元事業体としての原発でありたい。

一方、次世代型原発導入では「廃止決定した炉の建て替えを対象として、具体化を進めていく」と明記。政府としてはまず軽水炉の改良型の革新軽水炉の完成を早期に進めたい考えだ。それには、原発を運転する企業や研究機関との連携をうまく行い、原子炉の選択でも支援を行うことだ。

原子力エネルギーの可能性、その展望について改めて国民に説明する必要もある。年来の目標だった核燃料サイクルを実現するには、高速炉の開発が不可欠だ。またウラン資源に限りがあり、核融合炉の完成も目指すべきだ。わが国は戦後、原発の研究、開発のトップランナーの一国として活動してきた。新型の原発開発では世界的な競争が激化しており、この機会を逸してはならない。

人材育成大きな課題

稼働停止の原発機関から技術者が離れていってしまっている現状があり、残念なことだ。原子力のような大規模技術を扱う人たちは短期間で養成されるものではない。人材の育成こそ重要であり、岸田政権の目配りのきいた原発行政を望む。