」=26日午後6時56分、北海道斜里町沖.jpg)
北海道・知床半島沖で26人が乗った観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故で、運輸安全委員会は、船前方のハッチと窓から浸水して沈没した可能性が高いとする調査経過報告書を公表した。
ハッチから浸水して沈没
報告書によると、海底から引き揚げたカズワンの船首甲板にあるハッチのふたが無くなっていた。ふたの留め具は削れており、事故の2日前に行われた訓練でふたを確実に閉められなかったという証言もある。
何らかの理由でハッチが閉鎖されていない状態で出航し、揺れでハッチが開き、高い波が船首甲板に打ち付けたことで浸水したと考えられるという。ハッチに不具合があったとすれば、安全管理が極めてずさんだったと言わざるを得ない。
ハッチから入った海水は、エンジンがある機関室に広がり、電子制御系の部品がショートしてエンジンが停止した。隔壁が水密構造になっていれば沈没は防げたという。波の衝撃で外れたハッチのふたが客室のガラス窓を破り、客室内に大量に海水が入り込んだことも、浸水の速度を加速させたとしている。
現行法令では、カズワンのような小型旅客船に水密構造にすることを義務付けていない。だが今回のような悲惨な事故が起きた以上、国は再発防止に向けて義務付けを急ぐべきだ。
事故の大きな要因は、運航会社の安全意識があまりにも低かったことである。事故のあった日は悪天候が予想される中、船長は同業者の助言を無視して船を出した。運航会社が定めた基準では、航行中に風速8㍍、波の高さが1㍍に達する恐れがある場合は出航を中止することになっている。
現場海域では事故当時、風速は最大約10㍍、波の高さも2㍍前後に達していたとみられている。折り返し地点である知床岬の近くには荒天時の避難港があったが、カズワンが立ち寄ろうとした形跡はない。事故は起こるべくして起きたと言える。
観光船と運航会社の連絡体制にも大きな問題があった。会社の安全管理規定では、船長が運航管理者に対し、決められた地点に達した時に通過時刻や天候、風速、波浪などについて連絡する必要がある。
しかし、運航管理者である社長はこれらの連絡を受けて記録する作業を行っていなかった。運航管理者は航行中、原則事務所にいなければならないが、社長は病院に行っていたため事務所を離れていたという。
連絡手段も、事務所のアンテナが破損していたため無線機は使えず、船長の携帯電話は事故当時、通信エリア外にあった。救助要請は乗客の携帯電話から発信された。無責任の極みだ。
検査体制強化で命を守れ
一方、国の検査を代行している「日本小型船舶検査機構」が事故の3日前に定期検査を行った際、航路で携帯電話が「つながる」と答えた船長の言葉をうのみにして確認しなかったことの責任も重い。
この時はハッチの不具合も指摘されなかった。形式的な検査では事故を防げない。乗客の命を守るため、検査体制を強化すべきだ。



