【社説】台湾与党大敗 中国の働き掛けに要警戒

26日、台北で、台湾与党・民進党の党首辞任を発表する蔡英文総統(EPA時事)

台湾で統一地方選が行われ、与党・民進党が大敗した。台北市と北部の桃園市の市長選で民進党の候補が野党・国民党の候補に敗れ、ほかの県・市長選でも複数の現有ポストを失った。

候補者の選定を主導してきた蔡英文総統は、敗北の責任を取り兼任していた党主席(党首)を辞任すると発表した。事前の予測で民進党の苦戦が報じられていたが、2018年に続いての地方選大敗は蔡氏にとって厳しい結果となった。

対中政策は争点とならず

中国国務院台湾事務弁公室の報道官は、選挙結果を「平和と安定を求める主流民意を反映したもの」と歓迎し、引き続き台湾分裂の動きや外部勢力の干渉に反対するとして蔡政権を批判する談話を発表した。民進党が敗北した原因が米国との連携を強める蔡政権の対中政策にあると印象付けようとするものだ。

だが今回の選挙結果を、蔡政権の中国との対決姿勢に否定的な審判が下されたものと捉えることは誤りである。民主主義が定着した台湾では、有権者の日常生活に直結する地方政治と、外交や安全保障問題を切り離して考える傾向が強い。今回の選挙戦でも対中政策は主要な争点とならず、交通や福祉など身近な生活問題に関心が集まった。

民進党の敗北は、国民生活向上への有権者の期待に十分に応えられなかったことによるものだ。選挙に勝ったとはいえ、国民党が主張する対中融和を民意は求めておらず、選挙結果を受けて台湾の対中政策に変化が出る可能性は小さいと言える。

ただし中国の働き掛けには警戒を要する。10月の共産党大会で習近平総書記(国家主席)は、台湾への武力行使は放棄しないと語り、党規約に「台湾独立に断固として反対し、抑え込む」との表現を新たに盛り込むなど台湾統一の強い意志を示した。

そのため中台関係は、中国軍の台湾侵攻の切迫さが強調される。だが、中国の脅威は武力行使に尽きるものではない。中国は世論を誘導する「世論戦」や社会的混乱を煽(あお)る「心理戦」、法的に正当な立場を装い支持を得る「法律戦」の「三戦」を重視するなど政治戦に長(た)けた国だ。

今回の選挙戦でも、親中派候補者支援の資金獲得を目的としたマネーロンダリングや中国から台湾への違法送金で関係者が台湾の警察当局に摘発されたと報じられ、犯罪の背後に中国の関与が指摘されている。

中国の工作が選挙にどの程度影響を与えたかは特定し難い。だが、国民党の躍進が台湾に対する中国の工作活動を勢いづかせることは間違いない。今後中国は軍事的な威嚇と並行して、民進党批判を強める国民党との連携を強めつつ、偽情報の発信やサイバー攻撃、さらに台湾要人の抱き込みや独立派の切り崩し工作などを一層活発化させていくであろう。

日本は関係強化に努めよ

蔡政権は台湾防衛の努力を継続するとともに、中国の非軍事的手段による心理的圧力に断じて屈してはならない。日本は今回の選挙結果を冷静に受け止め、民進党政権との関係強化に努めることだ。また台湾の民主主義と安全保障確保のための協力を惜しむべきではない。