
岸田文雄首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連の首脳会議に出席するため訪問したカンボジアで、韓国の尹錫悦大統領と首脳会談を行った。日韓首脳の正式な会談は約3年ぶりで、元徴用工の問題などをめぐり長く悪化していた両国関係の改善が期待される。
米国含めた連携確認
今回、首脳会談が実現した背景には、北朝鮮が今年9月下旬から前例のない頻度で各種ミサイルを発射し、日韓が対北抑止でより緊密に連携を深める必要性に迫られたことがあったとみられる。
両首脳は会談で、北朝鮮によるミサイル発射が「日本と韓国を含む地域安保に重大かつ差し迫った脅威」だとし、米国を含めた3カ国による「抑止強化」を確認した。北朝鮮の狙いは日米韓の分断であり、歴史認識問題が常に火種となっている日韓の分断であることを思うと、会談の成果は大きい。
今月初めには自民党の麻生太郎副総裁が急遽(きゅうきょ)訪韓して首脳会談の「前さばき」をした。韓国側が一方的にこじらせた元徴用工問題で韓国政府自ら解決策を示すのを待ちつつ、まずは現実に差し迫った対北抑止で固い絆を結ぶため、首脳同士が直(じか)に会うことを最優先させるべきとの判断が働いたようだ。
数日後には、韓国軍が海上自衛隊の観艦式に7年ぶりに参加し、安全保障上の日韓協力に前向きな姿勢を見せた。反日路線を敷いた文在寅政権はレーダー照射事件を起こし、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄まで示唆した。見境のない安保軽視が横行したことを思うと、隔世の感がある。
また両首脳は、露骨な覇権主義をやめない中国を牽制(けんせい)するため両国とも独自に進めるインド太平洋構想について、互いに歓迎の意を表した。ウクライナ侵攻を続けるロシアを含め、権威主義国家に対し日韓が毅然(きぜん)とした態度で臨む意義も大きい。
尹大統領は今年5月の就任直後から日本との関係改善に意欲的だった。だが、日本側には「最終的かつ不可逆的な解決」を確認し合ったはずの慰安婦合意を、韓国が一方的に反故(ほご)にした経緯もあり、韓国に対する不信感は根強い。元徴用工問題の解決を図る上で、韓国の一部から日本による賠償や謝罪を求める声が今なお出てくることには驚きを禁じ得ない。
支持率低迷が続く尹政権としては、一部の国民に統治時代を想起させる日本との軍事協力を進めたり、元徴用工問題で譲歩したと映った場合、「親日派」のレッテルを貼られ、窮地に追い込まれる恐れがある。対応には慎重を要するだろう。
だが、歴史認識問題で足を引っ張り続ける韓国の一部勢力に阻まれ、いつまでも日本との本格的協力に躊躇(ちゅうちょ)していていいはずはない。日本も元徴用工問題の解決策を示せないからと言って韓国を突き放すのではなく、対北抑止などを軸に日韓協力を深める方向で両国関係を管理する努力を怠ってはならない。
育てたい改善の機運
両首脳が国際会議の場ではなく、相互訪問するシャトル外交を復活させる段階にまで関係改善の機運を育てたいものだ。



