【社説】葉梨法相更迭 政権に緊張感が足りない

葉梨康弘法相が法務行政の重責を自ら否定する軽率な発言の責任を取って辞任した。事実上の更迭であり当然である。あまりにお粗末な問題意識しか持ち合わせていなかった葉梨氏に重要閣僚を任せた岸田文雄首相の責任は重たい。同時に、メディアの動向を見ながら決断を迫られることを繰り返す首相の政治姿勢は危うい。政権に緊張感が欠けていることも猛省しなければならない。

不適材不適所の人事

問題となったのは「法相は死刑のはんこを押すときだけトップニュースになる地味な役職だ」という発言だ。葉梨氏はその後、謝罪し発言を撤回したが、過去のパーティー会場では何度も同じ発言を繰り返してきた。職責と人命の大切さについて任命された当初から理解していなかったわけで、不適材不適所人事だったと言える。

深刻なのは、岸田首相の判断の遅さ、決断力のなさだ。首相は「改めてその職責の重さを自覚し、大臣として説明責任を徹底的に果たしつつ職務に当たってほしい」と述べ、更迭を否定した。しかし、野党は反発を強めて辞任を迫り多くのメディアもそれに同調、与党からも辞任を求める声が出てようやく決断した形だ。

首相は「責任を重く受け止めている」と語ったが、この対応の遅さと判断力の鈍さは山際大志郎経済再生担当相を更迭した10月の時も同様だった。8月には、閣僚ら政務三役と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係について「調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定。その後、教団およびその関連団体との関係断絶を宣言し、自民党所属の全国会議員にアンケート調査を実施するに至ったのである。

裁判所に教団の解散命令を請求する要件に「民法の不法行為も入り得る」とした首相は「民法は含まない」とした前日の答弁を180度転換させた。背景には、続落する内閣支持率を気にするあまりメディアの声にばかり耳を傾け、批判する議員には野党であってもいい顔をして高い評価を得たいという願望がある。だが、それが後手後手の対応につながっていくのだ。

その結果として政界はますます混乱するという悪循環を生んでいる。首相周辺に的確なアドバイスのできる人材がいないようだ。政府・与党間の連絡も円滑ではない。これは政権危機以外の何物でもない。

一方の野党は、閣僚辞任のドミノを狙って「政治とカネ」の問題で次のターゲットを絞っている。首相の東南アジア歴訪後に任命責任を厳しく追及していく見通しだ。ただ、政権のあら探しに夢中になって第2次補正予算案の審議を疎(おろそ)かにしたり、日本を取り巻く緊迫した安全保障環境への対処を怠ってはならない。立憲民主党が政権担当能力を示すというネクストキャビネットを機能させる工夫が必要ではないか。

胆力持ち課題対処を

今国会は会期末まで1カ月を切った。

岸田首相は緊張感と胆力を持ち、国会の運営戦略を練り直して国家的な緊急課題への取り組みを強化すべきである。