【社説】原発運転延長案 上限撤廃で一層の活用を

経済産業省が既存原発の運転期間延長に関して「最長60年」とする運転期間から安全審査などによる稼働停止期間を除外するなど三つの案を示した。

ロシアのウクライナ侵略によるエネルギー価格の高騰や電力需給の逼迫(ひっぱく)などを踏まえ、政府は原発の一層の活用を図る必要がある。

「60年超」を事実上認める

経産省は総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の有識者会議に①現行制度の維持②運転期間の上限撤廃③一定の上限は設けつつ電力会社が予見できない要素による停止期間を除外する――との3案を提示。経産省は③を軸に検討を進めたい考えだ。

この案は、運転期間「原則40年、最長60年」をベースとしながら、原子力規制委員会の安全審査や裁判所の運転差し止め命令などによる停止期間を算入しないというものだ。事実上「60年超」の運転を認める内容となっている。停止期間を運転期間から除外することは妥当な措置だと言えよう。

政府は2011年3月の東京電力福島第1原発事故を受け、可能な限り原発依存度を低減するとしていた。しかし、ロシアが今年2月にウクライナ侵略を開始したことに伴うエネルギー価格の高騰や電力需給の逼迫を踏まえ、岸田文雄首相は8月、次世代型原発の開発や原発の運転期間延長などについて検討を加速するよう指示した。

経産省は期間延長について電気事業法に新たな規定を盛り込み、来年の通常国会に改正案を提出するとしている。エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼る日本では、準国産エネルギーと位置付けられる原子力の活用がエネルギー安全保障の観点からも求められる。

もっとも③の案では、運転期間の上限は残ることになる。規制委は経産省の期間延長の方針を受け、運転開始から30年以降は10年ごとに認可が必要とする規制試案を大筋で了承した。10年以内ごとに規制委の認可を受ければ、60年を超えて運転することが可能になる。

規制委の試案を踏まえれば、経産省は②の運転期間の上限撤廃を検討してもいいはずだ。米英仏では上限がなく、米国には80年までの認可を受けた原発も6基あるという。

ただ規制委は、認可基準の年数には従来通り審査や検査などによる停止期間も含む方針を示している。これでは原発を十分に活用できない。運転延長のための審査も、安全性を最重要視することは大切だが、いたずらに長引かせて電力会社に過大な負担を掛けることがあってはなるまい。

三菱重工業は9月、関西電力など電力4社と従来の原子炉よりも安全性が高い「革新軽水炉」を共同開発すると発表した。実用化が急がれる。

温暖化対策にも不可欠

運転時に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発は、地球温暖化対策にも利用できる。エジプトのシャルムエルシェイクで現在、温暖化対策を議論する国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が開かれている。日本の対策強化には原発のさらなる活用が不可欠だ。