安倍晋三元首相が暗殺されてからきょうで4カ月となる。元首相が選挙遊説中に銃撃を受け殺害されるという戦後日本では前代未聞の事件の真相は、いまだ闇の中だ。警察、政府、政治家たちは真相究明を求める声に応える義務がある。
疑問深める県警の説明
9月27日には安倍氏の国葬が営まれ、先月25日には国会で野田佳彦元首相による追悼演説も行われた。ただ事件に関しては、山上徹也容疑者が恨みを抱いていた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に安倍氏が近いとの思い込みから犯行に及んだという文脈の中で、旧統一教会の問題が専ら焦点となっている。
しかし、事件には大きな疑問が残っている。第一は安倍氏の救命治療に当たった奈良県立医大付属病院の福島英賢医師(教授)の所見と奈良県警の司法解剖の結果の所見が真逆に近いくらい異なっている点である。
福島医師は記者会見で、安倍氏の体には頸部の前方と右側の2カ所、左上腕部に1カ所、銃創とみられる傷があり、死因は「心臓および大血管の損傷による失血死」との見方を示した。さらに記者の質問に答え、「心臓の心室の壁に穴が開いていた」ことを明らかにしている。
一方、奈良県警は「左右鎖骨下動脈の損傷による失血死」という司法解剖による所見を発表した。心臓に損傷があったという福島医師の所見とは大きく異なるものだ。このことから、事件への疑問がSNS上で盛んに投げ掛けられてきた。
この問題を奈良県議会の総務警察委員会で中野雅史県議(自民)が取り上げ、警察側に説明を求めている。これに対し、安枝亮県警本部長は改めて、左右鎖骨下動脈の損傷が「致命傷」となり、この傷による失血が死因との見解を示した。安倍氏の体に入った弾は2発だけで「心臓には銃による傷は認められなかった」と明言している。
中野県議が、他に真犯人がいるのではないかとか、警察が何か隠しているのではないかという不確かな情報が流れていることを「情けない状況」と述べているところから察して、この質疑は安倍氏暗殺についてさまざまな疑問が示されている事態の鎮静化を狙ったものに見える。しかし県警の説明は、全くそれに応えるものではなく、疑問はさらに深まったと言える。
参議院議員の青山繁晴氏は「警察を含む政府側は今回、公判前であっても、司法解剖に基づく見解をきちんと内外に示すべき」と訴えてきた。これに対し、警察庁幹部から「そんなことを仰(おっしゃ)っていると、青山先生のためにもなりませんよ」という脅しとも取れる発言があったことを明かしている。なぜ、警察庁幹部が事件解明を求める声を封殺しようとするのか。理解に苦しむところだ。
政治的事件の可能性も
警察は単独犯行の線で捜査を進めているが、安倍氏の致命弾を放った者が山上容疑者以外にいたとすれば、それは崩れる。事件は政治的暗殺という全く次元を異にするものとなる可能性が高い。憲政史上最長の期間、首相を務め、なお大きな影響力を持っていた安倍氏の暗殺の真相を闇に葬ってはならない。



