梅毒患者が10月の時点で、初めて年間1万人を超えた。昨年の同時期と比べると、1・7倍と急増ペース。政府は「緊急事態」の認識を持ち、感染の恐れが高い性行動を取った人に検査を促すことや不特定多数との性行動に注意を呼び掛けるなど、拡大防止に力を入れるべきだ。
過去10年間で10倍に
国立感染症研究所によると、患者数は10月23日に1万141人(速報値)となった。過去最多の昨年(7983人)を既に2000人も上回っている。感染症法が施行され、現在の調査方法となった1999年から2012年までは1000人を超えることはなかった。過去10年間で10倍、最低だった03年(509人)の実に20倍である。
「梅毒トレポネーマ」という病原菌により発症する梅毒は、保菌者と性的接触がなければ感染する心配はほとんどない。しかし、約1週間から6週間程度の潜伏期間と30~40%と言われる高い感染率を考えると、今後どこまで患者が増えるか予断を許さない状況となっている。
この事態に、政府は先月末からインターネットテレビで国民に予防と検査を呼び掛けているが、対応が後手に回っている感は否めない。危機意識が足りないのではないか。緊急事態との認識を持ち、可能な限りの方法を駆使して予防・検査に加え、感染リスクの高い性行動を取らないよう、国民に注意喚起すべきである。
梅毒の感染初期には感染部位にしこりができたり、リンパ節が腫れたりすることがある。治療しなくとも自然に症状が消えることも少なくない。感染から1年以上経(た)つと、感染力はなくなるとされる。しかし、病原菌は体内に残り、治療せずに放置すると、脳や心臓に重大な合併症を引き起こし死亡するケースもある。早期に発見・治療することが肝要だ。
感染症法施行以前の性病予防法の下では、戦後間もない1949年に18万人近くの報告があったが、ペニシリンによる治療法が確立したため、それ以降患者数は減少していた。それがなぜ急増に転じたのか。その要因として専門家が指摘するのは、不特定多数の性交渉や性的接触が増えていることだ。
背景には、風俗店とインターネット交流サイト(SNS)や出会い系アプリの利用がある。女性は20代と30代が75%を占め、しかも感染者の4割が風俗業に従事した経歴があるとの調査結果がある。特に懸念されるのは20代前半の女性が多いこと。妊娠中の女性が感染すると、流産や死産のリスクが高まるだけでなく、胎児に感染し奇形が起こることもあり深刻だ。
感染経路として男性同士の性的接触が多いことも分かっている。交流サイトで出会った者同士が、しかもコンドームなしで関係を持つことは感染リスクの極めて高い行動だが、昨今の風潮から、そんな性行動を厭(いと)わない男性たちが増えている。
性倫理重視の機運高めよ
梅毒患者を減らすには、リスクの高い性行動を取った人に、早期の検査・治療を促すだけでは不十分だ。性倫理を軽んじる風潮を社会全体で見直す機運を高める必要がある。



