北朝鮮が平壌の順安付近から日本海に弾道ミサイル1発を発射した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の可能性が高く、2段目を分離後、通常飛行に失敗したとみられる。極めて危険な挑発であり、断じて容認できない。日本は米韓両国と連携し、警戒を強化すべきだ。
日本列島は通過せず
日本政府はミサイル発射を受け、全国瞬時警報システム(Jアラート)を通じ、宮城、山形、新潟各県の住民を対象に建物や地下に避難するよう警報を発令。防衛省は当初、ミサイルが「太平洋へ通過したとみられる」と発表したが、その後「日本列島を通過していない」と訂正した。失敗に終わったとはいえ、予告なしのミサイル発射は船舶などに被害が出る恐れもあり、極めて危険だ。
この後も北朝鮮は、西部・平安南道价川付近で短距離弾道ミサイルと推定される2発を日本海に向けて発射。さらに夜にも弾道ミサイルを発射した。
前日には、短距離弾道ミサイルや地対空ミサイルなど20発以上を日本海や黄海に発射している。このうち、短距離弾道ミサイル1発が日本海の南北軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)の韓国側公海上に落ちた。
NLLを越えてミサイルが着弾したのは初めてで、韓国の尹錫悦大統領は「実質的な領土侵害行為だ」と強い憤りを表明。韓国がNLLの北側にミサイルを撃ち込んで応酬するなど軍事衝突寸前の状況となった。
日本海側の鬱陵島では初めて空襲警報が出されてサイレンが鳴り渡り、一部住民は地下施設に避難したという。地域の安全を脅かし、緊張を高めることは許されない。
米韓両軍は軍用機約240機を投入した大規模空中訓練「ビジラント・ストーム」を実施しており、一連のミサイル発射はこれに反発したものだとみていい。訓練はきょうまでの予定だったが、米韓両軍は期間延長を決定した。
今回の挑発は、戦術核の実用化を掲げる北朝鮮の自信が背景にあるという見方が多い。だが米韓演習のたびに警戒態勢を取ることは、北朝鮮にとって負担が大きいようだ。日米韓は圧力を強化し、核実験などのさらに危険な挑発を思いとどまらせる必要がある。
一方、Jアラートの対象となった自治体のうち、新潟県関川村で住民への情報伝達に不具合があった。Jアラートを受信したものの、防災行政無線の放送が流れなかったという。
Jアラートをめぐっては、北朝鮮が先月、日本上空を通過する弾道ミサイルを発射した際も、北海道と青森県の計6市町で防災行政無線の放送が流れず、東京都の島嶼(とうしょ)部に誤って発信されるトラブルが生じた。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、有事への備えが不十分であってはならない。国や自治体は点検を急ぐべきだ。
反撃能力保有が急務
国家安全保障戦略など安保関連3文書の改定に向け、与党や有識者による議論が本格化している。敵のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有が急務だ。



