「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さんが2013年12月、京都市山科区の本社前で射殺された事件で、京都府警は殺人と銃刀法違反容疑で特定危険指定暴力団工藤会系組幹部の田中幸雄容疑者を逮捕した。
8年10カ月におよぶ執念の捜査の結果である。暴力団員が上場企業社長を狙った凶悪事件であり、全容解明が急がれる。
不適切取引めぐる犯行か
事件は13年12月19日早朝に発生。出勤してきた大東さんは車を降りた直後、25口径の自動式拳銃で腹部を3発、胸を1発撃たれ失血死した。事件後に現場から押収されたたばこの吸い殻に付着していたDNA型などから、田中容疑者が浮上。ただ、吸い殻が偽装工作の可能性も否定できないとみて、慎重に裏付け捜査を続けていた。
しかし大東さんと田中容疑者との接点は確認されておらず、事件には謎が残されている。捜査本部が注目したのは、王将による過去の約260億円に上る不適切取引だ。
第三者委員会が16年3月に公表した調査報告書は、王将が1995~2005年ごろ、特定の人物とその人物が関係する会社との間で、多額の貸し付けや不動産売買などの取引をしたと指摘。約200億円が流出し、うち約170億円は未回収となっていることを明かした。
ただ、王将と反社会的勢力との関係は否定している。大東さんはこれらの取引の清算を進めていたとされ、その過程で何らかのトラブルに巻き込まれた可能性がある。
田中容疑者は別事件で懲役10年の実刑判決を受け、現在は福岡刑務所で服役している。府警は田中容疑者を捜査本部がある山科署に移送した。全容解明を急ぎ、暴力団による一般市民への襲撃防止を徹底しなければならない。
北九州市に拠点を置く工藤会は、みかじめ料の要求を拒絶した企業や暴力団排除に積極的な一般市民を襲撃する事件を繰り返した。12年12月には全国唯一の特定危険指定暴力団に指定されるなど、特に凶悪な暴力団として知られている。
福岡県警は14年9月、幹部を相次いで逮捕する「頂上作戦」を決行。福岡地裁は昨年8月、1998年2月の元漁協組合長射殺など4事件を指揮命令したとして、殺人罪などで起訴された工藤会トップで総裁の野村悟被告に死刑判決を言い渡した。
判決公判で、野村被告は裁判長に向かって「全然公正じゃない。生涯後悔するよ」などと発言した。日本は法治国家であり、裁判官は法をつかさどる立場である。その裁判官を脅すような言動は法治主義に対する挑戦であり、工藤会の体質を示すものだと言える。
離脱への支援強化を
頂上作戦によって、工藤会は組員が離反して弱体化が進み、2020年末の県内構成員は430人で過去最少となった。
暴力団の構成員は減少傾向にあるが、いったん離脱しても元組員という理由で仕事に就けないため、組織に戻ってしまうケースも多いとされる。就職支援など必要なサポートの強化が求められる。



