【社説】習氏政治報告 認められぬ野蛮な挑戦状

第20回中国共産党大会が開幕した。習近平総書記(国家主席)は政治報告で、小康社会(ややゆとりのある社会)実現などを歴史的勝利と自賛し、2期10年の成果をアピールするとともに、社会主義現代化強国の完成や、中華民族の偉大な復興の実現を党の使命に掲げた。

台湾統一へ武力放棄せず

台湾問題については、香港で導入された「一国二制度」の方針が「両岸の統一を実現する最善の方法」とし「最大の誠意と努力で平和的な統一を実現しようとしているが、決して武力行使を放棄せず、あらゆる必要な措置を取るという選択肢を残す」と強調した。

前回の党大会で言及を避けた「武力行使」を公言したことは、台湾統一に向けた強い決意の表明と取れる。これに対し台湾当局は、一国二制度を断固拒否。「主権について譲歩せず、民主主義・自由について妥協しない」と述べるなど強く反発した。

習氏はアモイの副市長や福州の市党書記を歴任するなど台湾の対岸に位置する福建省の勤務が長いこともあり、かねて台湾との関係に関心を抱いていた。台湾問題の解決は、政治家習近平のライフワークとも言える。だが今日、台湾統一を殊更に強調するのは、それが異例とも言える3期目の政権に途を開き、自らの長期独裁体制を正当化するための口実に利用されていることを見落としてはいけない。

また毛沢東が果たせなかった台湾統一を成し遂げられれば、国家創健者をも凌(しの)ぐ終身指導者の地位を手にすることも夢ではなくなる。そうした強い野心も背後に見え隠れしている。

本年2月、ロシアはウクライナへの侵略を開始した。暴力で現状を変更しようとする暴挙に国際社会から厳しい批判が浴びせられている。そうした最中に、武力による台湾統一の考えを示した習発言は、世界に対する野蛮な挑戦状であり、断じて認めることはできない。

習氏は「台湾問題の解決は中国の内政問題であり、中国人自身が決定すること」だと述べ、武力行使の対象は「外部勢力の干渉とごく少数の台湾独立勢力およびその分裂活動」だとして、米国など国際社会が介入することを強く牽制(けんせい)する。

だが、そうした恫喝(どうかつ)に屈してはならない。日米欧はじめ自由諸国は独立を脅かされたウクライナへの支援を惜しまず、今やロシアの側が苦しい状況に追い込まれている。台湾の自由と平和を守るためにも、同様の連帯と協力が求められる。日本はそのような枠組み作りにリーダーシップを発揮すべきである。

3期目の政権担当が確実視される習氏が、台湾統一のためには武力行使も厭(いと)わない考えを明らかにした以上、これからの5年間、中国の台湾に対する恫喝や軍事的な威嚇行動はこれまで以上に激しくなる危険がある。日本や米国はそうした事態に備えねばならない。

日本は防衛力整備加速を

中でも地理的に台湾や中国に近い日本は、不測の事態に対処する覚悟が求められる。台湾有事は即日本有事となる。防衛力の整備強化を加速させるとともに、危機管理の能力を高めることも喫緊の課題である。