【社説】個人旅行解禁へ 円安梃に出遅れ挽回図れ

新型コロナウイルスの水際対策として実施されている入国者数の制限が撤廃され、個人旅行も解禁となる。先進7カ国(G7)から「鎖国状態」と批判された水際対策の緩和を機に、出遅れを挽回してインバウンド(訪日外国人客)を一気に増大させたい。

入国者数の上限撤廃

岸田文雄首相は米ニューヨークで記者会見し、10月11日から1日当たりの入国者数上限を撤廃し、短期滞在ビザの取得免除や個人旅行の受け入れも解禁することを明らかにした。また「全国旅行割」と「イベント割」も始め、コロナ禍で苦しんできた旅行業やエンタメ業などを支援していきたいとも述べた。

5月に英国で行った講演で岸田首相は、6月からの「G7並みの円滑な入国」を表明したが、添乗員付きのツアーに限定された。感染第7波の到来の影響によるものだが、科学的根拠からというよりは国内の空気を読んでのこととみられる。

今月7日から、添乗員を伴わないパッケージツアーの個人旅行受け入れを開始するなどしたが、訪日客は伸び悩んでいる。日本政府観光局(JNTO)によると、8月の訪日外国人数(推計値)は16万9800人で、コロナ禍前の2019年8月の6・7%にとどまる。

政府の逡巡による4カ月の出遅れは痛いが、もともと日本観光へのニーズは高い。世界経済フォーラムが発表した21年の旅行・観光の魅力度ランキングでも日本は1位となっている。折からの歴史的な円安を追い風に、潜在的ニーズによる“リベンジ旅行”で一気に挽回したい。

19年次の政府統計によると、インバウンドの中で個人手配による個人旅行の割合は約72%を占めている。個人旅行解禁の効果に大いに期待したいし、官民共に受け入れ態勢をいま一度点検し整えておく必要がある。

みずほリサーチ&テクノロジーズは、水際対策緩和で訪日客数は23年末にコロナ禍前の19年の72%まで戻ると分析。回復が遅れている外食、宿泊、娯楽などの需要が拡大し、国内総生産(GDP)を約5兆円押し上げる効果があると予想している。

円安による日本経済や国民生活へのマイナスの影響は、エネルギーを中心にした物価高をもたらしている。反対にプラス効果の中心となるのが、インバウンド増による日本での消費とその影響だ。これを好機到来として最大限に生かすべきである。

かつて訪日客の3割を占めていた中国は「ゼロコロナ政策」を続けており、当面期待できない。しかし、すでにインバウンド消費は中国人観光客の爆買いを期待するだけでは伸びない傾向が出ている。欧米やその他の地域からの観光客を対象に、滞在期間を伸ばす、あるいは体験型のツアーを企画するなどの魅力的なサービスを提供したい。

マスク着用の説明を

個人旅行の解禁で一番心配されるのは、日本のマスク着用の習慣に慣れない訪日客とのトラブルである。入国前に説明が行きわたるような工夫が必要だ。一方で日本人に対しては、屋外や密でない場所ではマスクを外してよいという政府のガイドラインを周知する必要がある。