【社説】ロシア動員令 無謀な侵略行為は停止すべし

モスクワでテレビ演説するロシアのプーチン大統領(21日 に大統領府提供)(AFP時事)

ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領は、予備役を召集する部分的動員令を発し30万人の新たな兵力を投入しようとしている。兵員、砲弾の補給が不足してウクライナ軍の反転攻勢を許していたことに対する措置だが、むしろ無謀な侵略行為を一日でも早く停止して露軍を撤収させるべきである。

全土に広がる抗議デモ

2月の侵攻開始当初、モスクワやサンクトペテルブルクなど都市では戦争反対デモが巻き起こり、プーチン政権は参加者を逮捕するなど強権を発動して押さえ込んだ。議会は、侵攻後1週間余りで「軍に関する虚偽情報を広める行為」に最大15年の禁錮刑を科す規定を刑法に加えた。国民はウクライナとの「戦争」や「戦争反対」を話すことさえ禁止される状態になった。

ファシストとの戦いなどのプロパガンダも嘘(うそ)である。民意を受けてウクライナの大統領に就任したゼレンスキー氏は、自身がナチス・ドイツから虐待されたユダヤ系の出身であることを公表している。

また、プーチン政権に批判的な新興財閥(オリガルヒ)やその家族の不審死が連続している。米国や欧州諸国など国際社会のかつてなく強力な対露制裁もあり、重苦しい空気がロシアを覆っている。その中で打ち出された部分的動員令への抗議デモが発生していることは、命懸けの覚悟であろう。

多くは若者が動員令に反対しており、またウクライナと戦うことに反対している。ロシア人とウクライナ人がスラブ民族の同胞であり、つい10年前までは鉄道や車で自由に往来する近しい国民同士であったことを思えば理解できることだ。

地域感情の対抗心はあっても、親戚も多くいる双方の国民が殺し合うことを、特に戦場に派遣されるかもしれない若者が望んでいないことは明白だ。ウクライナ側にとっては祖国防衛の戦いだが、戦地に派遣されるロシア人は侵略者として上官の命令一下、死傷するか、狂気の惨殺を繰り返し戦争犯罪を問われかねないのだ。

若者を中心に再燃したデモはロシア全土に広がり、21日だけでも1400人以上の逮捕者が出た。一方、国外脱出も相次いでいる。同情を禁じ得ない。

プーチン氏は一方的にウクライナ東部のルガンスク州、ドネツク州を「ルガンスク人民共和国」「ドネツク人民共和国」として独立承認し、集団的自衛権を発動した「特別軍事作戦」としてウクライナ侵攻を開始した。ここに来て「ロシア編入住民投票」を支持しており、侵攻中の両州や南部ヘルソン州などで強行し、独自の理屈でロシアへの併合を認める恐れもある。

その場合、ロシアが「特別軍事作戦」ではなくウクライナとの「戦争」と解釈し、動員令による兵力増強とともに大量破壊兵器を使用する可能性もある。

非を認め軍の撤収を

だが、ウクライナを支援する国際社会は結束を固めており、戦争の長期化はロシアにとっても大きな打撃となることは必至だ。ロシアは一方的にウクライナの国土国民を蹂躙(じゅうりん)した非を認め、露軍を撤収させて「法の支配」に服すべきだ。