
岸田文雄首相は訪問先の米ニューヨークで国連総会の一般討論演説を行い、安全保障理事会の改革を含む国連の機能強化の必要性を訴えた。
安保理は常任理事国である中国やロシアの拒否権乱用で機能不全が指摘されている。日本は安保理改革に向け、他の国連加盟国の理解を得る必要がある。
ロシアを名指しで批判
首相は、ロシアによるウクライナ侵略について「国連憲章の理念と原則を踏みにじる行為だ」とロシアを名指しで批判。「法の支配に基づく国際秩序の徹底のため力と英知を結集する時だ」と強調し、国連の改革や機能強化を呼び掛けた。
ウクライナ侵略が始まった直後、安保理は侵略を非難し、ロシアに即時撤退を求める米国主導の決議案を採決に付したが、ロシアが拒否権を行使し否決された。5月には、北朝鮮による大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を受け、対北朝鮮制裁を強化する米国主導の決議案を採決したが、中国とロシアが拒否権を行使したため否決された。北朝鮮の弾道ミサイル発射は安保理決議違反だが、これを野放しにする中国やロシアに常任理事国の資格はない。
国連憲章1条は国連の目的として「国際の平和及び安全を維持すること」を挙げている。国連が使命を果たすには、その中心である安保理の改革が喫緊の課題である。
日本は国連創設60年の2005年、ドイツ、インド、ブラジルなどと共に安保理拡大の決議案を国連総会に提出したが、十分に支持が広がらず廃案となった。ウクライナ危機が続く中、改革の機運を高め、他の加盟国の理解を得ていくべきだ。
首相は「改革に向けて文言ベースの交渉を開始する時だ」と述べた。日本が来年1月から安保理非常任理事国となることについては「小さな声にも耳を傾けながら法の支配を強化すべく行動する」と強調した。
一方、首相はロシアの核兵器による威嚇を非難するとともに「核なき世界」実現への決意も表明した。首相は今年8月にニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議で核兵器不使用の継続を呼び掛けたが、ロシアの反対で文書採択に至らなかった。
核廃絶を目指すことは決して否定されるべきではない。しかし、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方だ。核を保有する中露両軍はこのところ、日本周辺での共同行動を繰り返している。核・ミサイル開発を進める北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は、最高人民会議(国会に相当)での演説で、米国を牽制(けんせい)するために「絶対に核を放棄できない」と強調した。
核抑止力向上を図れ
中露朝に囲まれる日本は、米国の核抑止力に依存している。故安倍晋三元首相は生前、米国の核兵器受け入れ国が使用に際して意思決定に加わるニュークリア・シェアリング(核兵器の共有)について議論するよう呼び掛けた。
岸田首相は「非核三原則を堅持するわが国の立場から認められない」との立場だが、現状では核廃絶を目指すのではなく、核抑止力の向上を図るべきだ。



