【社説】英新首相 対中露外交の継続強化期待

英与党保守党の党首選挙で勝利し、新首相に就任したエリザベス・トラス外相はダウニング街10番地の首相官邸前で初めての演説を行った。=9月6日(UPI)

英与党保守党の党首選挙でエリザベス・トラス外相が勝利し、新首相に就任した。故サッチャー氏、メイ氏に続く史上3人目の女性首相には、ロシア、中国と厳しく対峙(たいじ)するジョンソン前首相の外交路線の継承・強化を期待したい。

強まる中国への警戒心

ジョンソン氏の辞意表明を受けての1カ月以上にわたった党首選の最終結果は、トラス氏の得票が約57%、スナク前財務相は約43%だった。トラス氏は、辞任の引き金を引いたスナク氏に対するジョンソン支持派の反対票も取り込んで勝利した。

勝利演説では、喫緊の課題である経済問題に力を入れることを表明。「減税を実行し、経済成長を促す」と語った。しかし、エネルギーを中心とする物価高騰にそれが効果を発揮するかは予断を許さない。

ロシアのウクライナ侵攻に対し、ジョンソン氏は米国と共に最も厳しい態度を取り、先進7カ国(G7)首脳で最初にウクライナの首都キーウを訪問。一貫してウクライナ支援の主導的役割を果たしてきた。8月下旬には、最新型無人機2000機を含む5400万ポンド(約87億円)相当の追加支援を発表した。

ジョンソン氏の下で外相を務めてきたトラス氏もウクライナ支援外交を展開し、選挙戦でも「ロシア軍をウクライナ全土から押し出さなければならない」と訴えてきた。こうしたウクライナ支援策、対露強硬姿勢を継続していくものとみられる。

このような姿勢は、ウクライナ侵攻への強い怒り、民主主義の価値を守るという国民世論の高まりを背景にしている。「鉄の女」と言われたサッチャー氏を尊敬する新首相には、毅然(きぜん)とした外交姿勢を貫いてほしい。

ロシアと同様に力による現状変更を試みる権威主義国家中国に対してもジョンソン政権は、以前の融和的な姿勢を改め、厳しい態度へと政策転換した。トラス氏も中国への強い警戒感を示してきたが、英紙によると、外交・安全保障政策の「統合レビュー」を改定し、中国を初めて安全保障上の「脅威」と明記する方針だ。その中には中国を含めた権威主義国家への技術輸出を制限するなどの方針が盛り込まれるという。

ジョンソン政権は昨春、中国の影響力拡大をにらんで、インド太平洋地域への関与強化を発表。オーストラリアの原子力潜水艦建造に協力する米豪との安保枠組み「AUKUS(オーカス)」も創設している。

英国がインド太平洋地域に深い関心を持ち、その安全への関与を強めることは「自由で開かれたインド太平洋」を目指す日本にとって歓迎すべきことで、日英の連携強化が望まれる。昨年8月には、沖縄南方で英海軍の最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群と自衛隊が共同訓練を行った。

 日本は連携を深めよ

日英の連携は、経済面でも強まっている。昨年1月、英国が環太平洋連携協定(TPP)への加盟を申請したことを受け、加盟交渉も始まっている。日本政府は、力による現状変更を目指す権威主義の国々と毅然と対峙するためにも、英国との連携をさらに深めていくべきだ。