【社説】日本人職員最多 国連での存在感を高めよ

4月7日、ニューヨークの国連本部で決議案を採択する国連総会の緊急特別会合(EPA時事)

林芳正外相は、国連に関係する42の機関で働く日本人職員が2021年末時点で過去最多の956人になったと発表した。20年末に比べ38人の増加で、日本人幹部職員も3人増の91人とこれも過去最多だ。

主要国に比べれば少ないが、日本の存在感を高め、また国連加盟国としての責務を果たす上でも、日本人職員の増加は歓迎すべきことである。

働き掛けを強める中国

国連はロシアのウクライナ侵略を阻止できず、その無力さを露呈した。一方、各国は援助資金獲得など国益実現のため、国連など国際機関に多くの職員を送り込もうと必死で、限られたポストをめぐり熾烈(しれつ)な競争が繰り広げられているのも事実だ。

これまで日本は、国連を日本の目指す政策実現のための場として活用する発想や意欲に乏しかった。だが、国連の決議や報告をご託宣の如(ごと)く承るだけでは駄目だ。国連に人を送り、積極的に国連を動かし、改革を進めることで大国の横暴や覇権主義を抑え、平和で安定した国際社会を自らの手でつくり出す努力が必要だ。国際情勢が厳しさを増す現在、そのような取り組みは一層重要になっている。

日本も冷戦後、政府開発援助(ODA)世界一の実績を背景に、世界保健機関(WHO)や国連教育科学文化機関(ユネスコ)など主要国際機関のトップに人材を送り出し、緒方貞子氏が日本人初の国連難民高等弁務官に就任した。だが05年に安保理常任理事国入りの夢が破れ、日本の国連外交は勢いを失っていく。財政難を指摘する声もあるが、日本より経済力で劣る国が国連の要職を得ている現実を見れば、言い訳にはならない。

しかも日本と対照的に、中国が国連など国際機関への働き掛けを強めている。自らに有利な国際世論の醸成やルール作りが狙いで、15ある国連専門機関のうち3機関のトップを中国人が占めている。日本は一つだけ。昨年夏まで0だった。国連分担金も、中国は19年に日本を抜き、米国に次ぐ2位となった。

影響力を高める中国は、国連人権高等弁務官に圧力を掛け、新疆ウイグル自治区の人権侵害に関する報告書の発表を妨げてきた。国連が権威主義国の思惑に左右され、壟断(ろうだん)される事態を防ぐためにも、民主国家日本は国連への関与、働き掛けを強めていくべきだ。日本人職員を増やすことは、そのための重要な施策の一つである。

日本政府も「25年までに国連関係機関で働く日本人職員を1000名とする」目標を掲げ、日本人の増加に努めている。昨年2月には外務省と国家安全保障局を共同議長に16省庁が参加する連絡会議を立ち上げ、国際機関のポスト獲得に政府一体で取り組む方針を確認している。

優秀な国際人材の育成を

日本人を増やすには、優秀な国際人材の育成・確保が鍵になる。大学の国際化教育の充実をはじめ、学生に対する国際機関の情報提供や採用に必要な学位の取得を促すなど幅広く手厚い措置が国に求められる。官僚に加え、若手政治家の起用も一考だ。帰国後のキャリア形成で不利益を被らない人事制度の導入なども必要である。