【社説】梅毒過去最悪 性モラル高め拡大防ぐ教育を

性感染症の梅毒患者が最悪のペースで増えている。出会い系アプリが性モラルの崩壊に拍車を掛ける状況の中、「多様な性」を強調する学校教育の影響を受け、性モラルを欠いた若者が社会に出ている。性教育の在り方を見直すことが急務である。

出会い系アプリで拍車

梅毒トレポネーマ(梅毒の病原菌)は性的な接触などでうつる。初期には感染部位にしこりができたり、リンパ節が腫れたりすることがあるが、治療しなくても自然に症状が消えることが多い。しかし、病原菌は体内に残る。長期間放置すると、菌が血液によって全身に運ばれ、脳や心臓に重大な合併症を起こして死亡するケースもある。早期に治療することが肝要だ。

一方、初期症状が出ないこともあり、感染に気付かずに性行為を行うと感染を拡大させてしまう。クラミジアやヘルペスなど他の性感染症に感染していると、粘膜組織が弱り、感染リスクが数倍高まることから、エイズをはじめ他の性感染症との重複感染が多いのも特徴だ。妊娠中の女性が感染すると胎盤を通して胎児も感染し、死産、早産、新生児死亡、奇形が起こることもある。これを機に、思慮を欠いた行動が無辜(むこ)の命を奪うこともあることを心に留め、自らの性行動を抑制すべきである。

戦後、梅毒の減少は先進国に共通した傾向だった。現在の調査方法に変わった1999年以降では、2003年に509人までに減り、一時は「昔の病気」と考えられていた。

だが、13年(1228人)から急増。昨年は7983人と過去最悪を記録した。今年は8月14日時点で7241人の報告があった。年間で1万人を突破するのは間違いない。

これには複数の要因が考えられる。欧米では、男性同性愛者に感染が広がっているとの報告がある。日本でも男性患者が多いが、最近は若い女性にも広がっており、性風俗店が感染を拡大させている可能性がある。

急増に転じた13年は、スマートフォンの普及率が携帯電話を上回った年だ。ネット検索すると、出会い系アプリが無数にヒットする。これが不特定多数との性行為に拍車を掛けているのだろう。

予防にはコンドーム使用が効果的だと言われているが、100%ではない。その上、男性同士では使用しない傾向があると言われる。危機感を抱いた日本性感染症学会などが「ストップ!梅毒 プロジェクト」を発足させたが、国民の関心は薄く、効果はあまり期待できない。

さらに、性モラルの崩壊を助長しているのが学校教育だ。LGBT(性的少数者)運動の影響もあり、「性の自己決定」「多様な性」ばかりが強調される一方で、性モラルの重要性が若者に伝わりづらくなっている。これでは性感染症の拡大に歯止めを掛けるのは困難だ。

一夫一婦の重要性伝えよ

一見すると迂遠(うえん)なようだが、家庭と学校を中心に、若い世代に性関係を一組の男女に収斂(しゅうれん)させる一夫一婦の婚姻制度の意義と、夫婦関係にある男女以外との性行為を抑制することの重要性を伝えることが性感染症の防止には不可欠なのだ。