【社説】ミャンマー国軍 不毛な強権行使に未来はない

ミャンマー軍政が、民主活動家ら4人の死刑を執行した。
軍事法廷では、被告側に正当な弁明や弁護の機会が与えられていない。昨年2月のクーデターから1年半が経(た)とうとする中、軍政は政治犯処刑という形で一線を越えた。民主派への政治的恫喝(どうかつ)のため、守るべき規範を破った暴挙は、軍政とはいえ曲がりなりにも国政を預かる責任の放棄に等しい。

国際社会無視の死刑執行

東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国カンボジアのフン・セン首相は6月、死刑執行を思いとどまるよう求める書簡を、軍トップのミンアウンフライン総司令官に出していた。欧米諸国もミャンマー軍政に対し、自制するよう働き掛けてきた。こうした国際社会からの呼び掛けを一切無視する形の有無を言わさぬ死刑執行で、国内の分断が一層深まるミャンマーの将来を危ぶむ。

ミンアウンフライン氏は今春、民主派をテロリストと断罪して「全滅させる」と宣言した。ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会」によるとクーデター以降、軍や警察官の発砲などで死亡した市民は2100人を超え、拘束者数は1万4000人以上とされる。

さらに、子供2人を含む117人に死刑判決が出ているとされる。これ以上の犠牲者を出さないためにも、国際社会は厳しい態度で臨む必要がある。日本政府はこれまで、国軍との独自のパイプを強調し独自路線を敷いてきたが、ASEANや欧米諸国と連携しながらミャンマー軍政への牽制(けんせい)を強めるべきだ。

ただ、こうした西側の牽制を弾き飛ばしているのが、内政不干渉を建て前にミャンマー軍政への影響力強化に動いている中露の存在だ。

ミンアウンフライン氏はクーデター後、ロシアを2度訪問。軍事、経済両面での連携強化を図っている。ロシア側は「ミャンマーは信頼すべき戦略的パートナー。軍事・技術面で関係をさらに発展させる準備がある」として、対空ミサイルシステムの新規供与を発表したほか、中国などが参加する軍事訓練にミャンマー軍兵士らを招待した。

また中国の王毅外相は7月初旬、クーデター以降初めてミャンマーを訪問し、「両国関係は常に盤石だ」と述べて国軍支援に動いた。

クーデター政権に対し、欧米諸国が下した経済制裁の間隙を縫う形で、後ろ盾として自陣営への取り込みを図ろうと動いている中露は要注意だ。有事にインドシナ南部の流通回廊を遮断されるマラッカリスクを抱える中国にとって、雲南省からインド洋に陸路で抜けられるミャンマーは地政学的な要衝だし、ロシアにとっては有力な武器輸出市場でもある。

中露念頭に置いた外交を

ミャンマー軍政が強権型統治に突き進んでいるのも、後ろ盾となっている中露をモデルとしている傾向がみられる。その意味ではミャンマーに、再び民主化の息を吹き込むには、中露という外堀を埋める外交戦略が必要となる。いずれにせよ、不当な権力奪取と不毛な強権行使にまともな未来はないことを覚悟すべきだ。