経済成長は既に頭打ちとなったにもかかわらず、本年度の中国の国防予算は前年度比7%を超えるなど習近平国家主席の強国・強軍路線は強まるばかりだ。特に海軍の増強は顕著で、昨年中国が就役させた海軍艦艇は22隻に上る。米海軍の3隻と比べ、7倍以上の規模だ。
海軍の行動範囲が拡大
艦艇の増加だけでなく、中国海軍の行動範囲は拡大し、周辺諸国に対する威嚇、挑発も増加の一途にある。5月には台湾東方の太平洋上で空母「遼寧」が300回を超える艦載機の発着艦訓練を実施。台湾有事に向けた準備を進めていることを誇示した。ロシアのウクライナ侵略後は中露の連携行動も増え、6月には中国海軍艦艇4隻と露海軍艦艇7隻が共に日本列島を周回し、同時多正面からわが国を威嚇する動きを見せている。
さらに南西諸島を抜け、東シナ海と太平洋を往来する中国海軍艦艇が急増しているほか、中国は日本周辺海域での海洋調査活動も活発化させている。7月20日には中国海軍の測量艦が鹿児島県・屋久島周辺の領海を侵犯した。中国海軍艦艇の領海侵犯は今年4月以来で6回目。日本政府が「懸念」を伝えても、中国の動きが沈静化する気配は一向に見られない。逆に、さらなる威嚇挑発の行動に出る動きもある。
中国海警局は7月18日、76㍉砲を搭載したとみられる艦船2隻が山東省青島を出港したと発表した。45日間にわたり北太平洋での違法操業の取り締まりなどに従事し、国際的責務を果たすためと海警局は説明するが、日本の周辺を航行することから、重武装化したこの公船が日本の領海に侵入したり、漁船を威嚇したりするなどの挑発行動を取れば、不測の事態を招く恐れもある。
習氏はこのほど、中国政府による人権抑圧や民主化運動の弾圧が国際社会から強い非難を浴びている香港と新疆ウイグル自治区を相次いで視察した。敢(あ)えて問題ある地域に赴くことで、共産党による支配と統治に揺るぎのない様を国内外にアピールし、秋に予定されている中国共産党大会での3期目の政権実現を確実にする狙いがあるとみられる。
党大会を間近に控えた習氏が、内政に留まらず、対外政策での実績作りに出ることも考えられる。台湾に対する威嚇恫喝(どうかつ)や沖縄県・尖閣諸島はじめ日本周辺海域での中国海警船の示威行動をさらにエスカレートさせるケースなどが頭に浮かぶが、今回の重武装船の長期派遣がこうした政治的意図に利用される可能性も否定できない。
警戒監視を強化せよ
翻って日本に目を向けると、先の参院選で自民党が圧勝したとはいえ、岸田政権を支える大きな柱であった安倍晋三元首相を失い、コロナ感染の再拡大や急激な円安、物価高騰など、政治だけでなく経済社会情勢も流動不安定化の兆しが見える。
その隙を突いて中国が日本の防衛体制を試したり挑発行動に出たりしないよう、海上保安庁や自衛隊など関係各省庁は連携を深めて警戒監視を強化するとともに、領土領海防衛のため万全の態勢を敷く必要がある。



