【社説】緊急承認見送り 治療薬開発の体制強化急げ

厚生労働省の合同会議は、塩野義製薬が開発する新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」の緊急承認を見送った。

国内では1日当たりの新規感染者数が初めて20万人を超えるなど、流行の「第7波」が本格化している。政府はワクチン接種などの感染対策を進めるとともに、治療薬開発の体制強化を急ぐべきだ。

 有効性を推定できず

ゾコーバは国産初のコロナ飲み薬として期待を集めていた。しかし、合同会議は「提出されているデータからは有効性が推定されるとは判断できない」との結論を出した。

合同会議では、審査を行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)が報告書を提出。ゾコーバの服用で「ウイルス量の減少傾向が認められたことは否定しない」としたが、最終段階の治験を踏まえて再検討が必要との見解を示した。

塩野義がオミクロン株流行下で行った臨床試験では、疲労感や発熱など12症状の総合的な改善効果について、統計的に有意な差が得られなかった。有効性が推定できない以上、承認見送りはやむを得ない。

国内で既に実用化されている飲み薬は、米メルク製と米ファイザー製の二つがある。ただ、二つとも重症化リスクのある人が対象で、処方できる患者は限定的。一方、ゾコーバは重症化リスクの有無を問わず多くの人に処方できるよう、幅広い層を対象に臨床試験を行ってきた。

また外国製の飲み薬は、国際情勢が不安定になれば確保が難しくなる恐れもある。この意味でも、国産薬の開発は重要だ。合同会議は、11月に提出予定の最終段階の臨床試験(治験)の結果などを待って改めて審議する見通しだが、塩野義はゾコーバの実用化に向けて努力を重ねてほしい。

今回適用が判断された緊急承認は、緊急時に限り、臨床試験完了前でも、有効性が推定できれば医薬品などの薬事承認を認める制度。新型コロナ禍での国産ワクチンと治療薬の開発、実用化が出遅れたことを教訓に5月に導入され、ゾコーバが初の審議対象となった。

合同会議では「第7波の拡大に伴い、危機感が高まっている」「ウイルス量を減少させる効果はあり、隔離期間を短縮できる可能性はある」など承認に前向きな意見もあった。ウイルスが目まぐるしく変異することもあって判断は難しいが、感染症流行を「有事」と捉えて対処すべきであることは確かだ。

政府は3月、日本医療研究開発機構(AMED)内に、国産ワクチン開発の司令塔機能を担う「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」を設立。国内での開発加速を目指している。国産ワクチン・治療薬を戦略物資と位置付けて開発体制を強化する必要がある。

 緊急事態条項の創設を

政府は6月、新型コロナ禍の次の感染症危機に備えて「内閣感染症危機管理庁」を新設する方針を決めた。本格的な検討を急ぐべきだ。

感染症などの有事に対処するには、憲法を改正して緊急事態条項を創設することも大きな課題である。