
ロシアのプーチン大統領はイランの首都テヘランでトルコのエルドアン大統領と会談し、ロシアによる侵略で滞るウクライナ産穀物輸出をめぐって協議した。この後、プーチン氏は、ロシア産穀物に対する米欧などの制裁緩和が必要だという認識を示した。
しかし、制裁緩和はロシア軍のウクライナからの全面撤退が大前提である。アフリカ諸国などで食料危機が深刻化する中、姑息(こそく)な駆け引きを行うことは許されない。
露が制裁緩和を主張
ロシアとウクライナは共に世界有数の穀物輸出国で、特に小麦や大麦の生産が盛んなウクライナは「欧州のパンかご」と呼ばれてきた。ところがロシアの侵略後、インフラの破壊や物流の寸断で輸出が激減。ロシアも穀物や肥料の輸出を制限し、世界的な食料不足と価格高騰が起きている。特にアフリカは両国への食料依存度が高く、危機の影響は甚大だ。
今月行われたロシア、ウクライナ、トルコ、国連の4者による会合では、穀物の輸出再開で「実質的な合意」(グテレス国連事務総長)に至っていた。今回の首脳会談は、このテーマについてトップ同士で改めて話し合ったものだ。
だが、ウクライナ侵略を正当化しようとするプーチン氏の姿勢は全く変わっていない。AFP通信によれば、プーチン氏は記者団に「ウクライナの穀物輸出を手助けするが、ロシア産穀物輸出に関する全制限の解除から始めるべきだ」と主張した。協力の条件として制裁緩和を持ち出すのは、食料不足に苦しむ人々を人質に取るようなもので卑劣極まりない。
いかなる理由があっても、他国を侵略することは国際法に違反し、容認し難い行為である。国際社会から制裁を科されるのは当然だ。
ロシアの身勝手な態度で、グローバル経済の推進役となってきた20カ国・地域(G20)が機能不全に陥っている。インドネシア・バリ島で今月開かれた財務相・中央銀行総裁会議では、4月の会合に続き共同声明を採択できなかった。
日米など先進国側は侵略を続けるロシアを強く非難。一方、反発するロシアに加え、対露制裁に距離を置く中国などの新興国も多く、参加国間の溝は埋まらなかった。国連安全保障理事会でも常任理事国の米英仏と中露が激しく対立し、ロシアは自国の侵略をめぐって拒否権を乱用している。
本来であれば、食料危機には国際社会が一致して対応しなければならないはずだ。力による一方的な現状変更の試みを続ける中露が結束を乱していることは、誠に嘆かわしいと言わざるを得ない。
西側諸国は支援強化を
6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)では「世界的な食料安全保障を増進し、最も影響を受けやすい人々を守る努力を惜しまない」として、45億㌦(約6100億円)の追加拠出を打ち出した。
西側諸国はロシアと戦うウクライナを支援しつつ、食料危機に見舞われている人々への支援を強化する必要がある。



