【社説】スリランカ 危機招いた対中債務の「わな」

経済危機に直面しているスリランカで混乱が広がっている。スリランカ政府はゴタバヤ・ラジャパクサ大統領の国外脱出を受け非常事態を宣言した。これ以上の混乱に陥らせないための国際支援が求められる。

大統領が国外に脱出

非常事態の対象は全土で、期間は無期限。ラジャパクサ氏は失権し、後任の大統領選出までウィクラマシンハ首相が大統領代行となった。

外貨不足に伴う深刻な経済危機に陥ったスリランカでは、燃料を輸入できないため、国民はまきによる調理や車から自転車への乗り換えなどを強いられている。発電用の燃料不足で1日計3時間ほど停電になるほか、パンや卵の価格は「1年前の3倍」になった。ウィクラマシンハ氏は今月、国の「破産」を宣言した。

こうした中、スリランカでは3月中旬ごろから抗議デモが頻発していた。今月に入って、ラジャパクサ氏の辞任を要求するデモ隊が大統領公邸を占拠。ラジャパクサ氏は軍用機で国外に脱出した。

経済危機の背景には、インフラ整備のため中国などから借り入れた巨額の対外債務がある。ゴタバヤ氏の兄で2005年に大統領に就任したマヒンダ・ラジャパクサ氏は、中国との関係を深め、無謀な借金と無駄なインフラ建設に突き進んだ。

しかし親族を要職に登用して独裁色を強めたため、15年の大統領選で敗北。19年の大統領選で勝利したゴタバヤ氏は、一族への批判をかわすため無理な大減税を行い、経済を疲弊させた。権力の私物化とそれに乗じた中国の経済進出が、スリランカの危機を招いたと言えよう。

中国の習近平国家主席が13年に提唱した経済圏構想「一帯一路」には、これまでに149カ国・32国際機関が協力を表明。中国から一帯一路沿線国への直接投資額は、21年までの累計で1613億㌦(約21兆円)に上るという。

だが、この経済圏構想では、中国が支援対象国のインフラを軍事利用する目的で借金漬けにし、返済困難となった国への影響力を強める「債務のわな」が問題視されている。スリランカでは債務の返済が滞ったため、17年に南部ハンバントタ港の運営権を中国に99年間貸与することで合意した。

スリランカは現在、中国から支援を引き出そうと動いているが、目立った成果を挙げていない。一帯一路が地域の発展ではなく、中国の覇権拡大のためのものであることが分かる。

中国はインド洋でインドを包囲するように拠点を確保する「真珠の首飾り」戦略を進めている。ハンバントタ港のほか、パキスタンやミャンマーなどでも港湾を開発している。これ以上、債務のわなにはまる国を増やしてはならない。

安倍氏の構想具体化を

参院選の遊説中に銃撃され亡くなった安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」構想は、こうした中国の覇権主義的な動きに対抗するものだ。日本は欧米諸国と協力して「質の高いインフラ」支援などで安倍氏の掲げた構想を具体化する必要がある。