【社説】安倍氏警護 徹底検証し悲劇の再発防げ

政界の重鎮である元首相をなぜ守れなかったのか――。安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、警察庁は警護に問題があったとして、庁内に検証チームを設け、要人警護の在り方を抜本的に見直すことを決めた。徹底検証して悲劇の再発を防がねばならない。

警察庁が検証チーム設置

「重大な結果を招き、要人警護の責任を果たせなかった。都道府県警察を指揮監督する警察庁長官としての責任は誠に重いと受け止めている」――。警察庁の中村格長官は厳しい表情で語った。

これまで、元首相の警護では都道府県警察が警護・警備計画を策定し、警察庁はほとんど関わってこなかった。中村長官は「現場の対応のみならず、警察庁の関与の在り方にも問題があった」と述べている。日本ほど安全な国はないと思われていた海外での信頼が損なわれた。警察庁の主導による信頼回復を望みたい。

警察庁は二之湯智国家公安委員長から指示を受け、「検証・見直しチーム」を設置。まず安倍氏に対する警護・警備の問題点を洗い出す。警察官の態勢や配置が適切だったか、現場で警護に当たった担当者から聞き取りなどを行い、8月中にも検証結果をまとめて公表する。

悲劇は幾つもの問題点が重なって起きたように見える。まず国政に大きな影響力を持つ元首相の遊説であったにもかかわらず、警備の警察官が手薄だった。そして安倍氏の背後の車道を挟んだ歩道にいた容疑者が、演説開始後、安倍氏に近づき銃撃した。容疑者が車道に出ても止める警察官はいなかった。

想像力を働かせれば背後からの襲撃の可能性は十分に考えられたはずである。警察官の配置自体に大きな問題があったのではないか。

そして多くの人が指摘するのは、1発目の銃撃後、致命傷を与えたとみられる2発目までの間に2~3秒あったのに、安倍氏を伏せさせるなどして銃弾から守ることがなぜできなかったのかという点だ。

警察庁は要人警護に関する要領を文書で定めて都道府県警察に配布し指導しているが、今回の事件を受け確認したところ、爆発物などの物体が投げられることへの対処に集中し過ぎており、銃器への対応が不十分であった可能性が指摘されている。警護のマニュアルが適切なものか徹底的に検証してほしい。

警護は体を張って人を守る仕事であり、事態に瞬間的に対応しなければならない。それだけに日頃の訓練が重要だ。成果は一瞬に表れる。訓練、心構えが十分だったのかも検証する必要がある。

容疑者が使用したのが手製の銃であったことも大きな衝撃だ。インターネットで作り方を調べ、部品などもネット販売で購入したと供述している。ネット上で、このような情報が簡単に閲覧できる時代だ。

手製の銃での犯罪対策を

こうした現状を考えると、今後も同様の事件が起きる可能性も考えられる。ネット上の規制を含め、手製の銃による犯罪を未然に防ぐ方策を検討すべきではないか。