【社説】対露自衛戦支援 ウクライナ軍近代化は不可欠

ウクライナのゼレンスキー大統領=6月16日、キエフ(UPI)

ウクライナを侵略するロシア軍と戦うウクライナ軍が消耗戦による砲門・砲弾不足などで苦境に立たされていることから、北大西洋条約機構(NATO)はウクライナ軍の旧ソ連時代からの装備をNATO標準装備に換える支援を始めることを決めた。ロシアの侵略を食い止めるため、ウクライナの自衛戦争への支援は不可欠だ。

NATO装備を供給

「特別軍事作戦」と称したロシアのウクライナ全面侵攻から4カ月近く経(た)ち、ウクライナ兵が操作に慣れた旧ソ連時代からの兵器や弾薬が不足してきたことが、苦戦の大きな原因だ。ウクライナ国防当局者は、露軍が砲弾やロケット弾を1日約6万発撃つのに対しウクライナ軍は5000~6000発であり、使用可能な野戦砲は露軍の10~15分の1と指摘している。

今後、NATOとの相互運用を図ってウクライナ軍の近代化が進むことにより、ウクライナの脱露入欧が既成事実化していくことになる。その前にロシアが、ウクライナ域内の支配地域を広げようと軍事攻撃を強化することが懸念される。

露軍はウクライナ東部ルガンスク州の完全制圧に向け、ウクライナ軍が同州で最後に踏みとどまるセベロドネツクに北、東、南の3方向から総攻撃を掛けていると伝えられている。ウクライナ側は火力不足による苦戦を強いられている。

欧米の情報機関は、激戦となっているセベロドネツクの戦闘が、長期的にウクライナでの戦争の勝敗を決する転換点になると分析していると米メディアなどが報じた。兵力で圧倒して消耗戦に持ち込む露軍や親露派勢力の戦術によって劣勢に立たされ、ゼレンスキー大統領はさらなる武器供与を欧米諸国に求めていた。

NATOの砲門の口径、弾薬のサイズと旧ソ連製の違いや、兵器の操作方法の違いなどによって、これまでのウクライナへの武器供給が効果を発揮するまで時間がかかっている。米国が供給を決めた榴弾(りゅうだん)砲の場合、扱うまでに3週間の訓練が必要とされる。

月末のNATO首脳会議で、高性能なNATO標準装備をウクライナ軍が運用できる「包括的な支援パッケージ」について合意するとみられている。ウクライナ軍が実際に運用して戦果を得るまでの時間は戦況を左右するだけに、可及的速やかな対応が迫られよう。

これまで露軍について劣悪な装備、兵士の士気の低さ、補給線の問題などが指摘されてきたが、物量を背景に市民を巻き込む焦土戦で自国軍の損失が多大でも遅々ながらウクライナで支配地域を広げてきた。止めるのは力しかなく、NATOはじめ他国から供給される武器しか頼りにならない状況だ。

容認できぬ侵略正当化

プーチン露大統領は、企業家や科学者を集めた会合でロシア帝国の領土を戦争で拡大したピョートル大帝を模範とする発言をしており、「領土を奪い返して強化する責任」を強調した。主権侵害明白な侵略をも正当化する前近代の帝国主義的領土拡張は、国際秩序を崩壊させかねない。断じて容認できない。