神奈川県大井町の東名高速道路で2017年6月、「あおり運転」で停止させられた乗用車にトラックが追突し一家4人が死傷した事故の差し戻し裁判員裁判で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)罪などに問われた石橋和歩被告に対し、横浜地裁は求刑通り懲役18年の判決を言い渡した。あおり運転の危険性を改めて胸に刻みたい。
差し戻し審で懲役18年
判決によると、石橋被告はパーキングエリアで萩山嘉久さんに駐車方法を非難されたことに憤慨し、一家の車の進路をふさぐなどの運転を繰り返して追い越し車線上に停車させ、大型トラックによる追突事故を誘発。萩山さん夫妻を死亡させ、娘2人にけがをさせた。感情に任せた身勝手な行動で、こうした結果を招いたことは言語道断だ。
裁判では危険運転致死傷罪が認定されるかが争点となった。差し戻し前の一審横浜地裁、二審東京高裁はいずれも認めている。だが高裁は、地裁が公判前整理手続きで「危険運転致死傷罪は成立しない」と表明し、見解の変更を告げないまま同罪で有罪としたのは違法だとして一審判決を破棄し、地裁に審理を差し戻した。
青沼潔裁判長は被告車両の位置情報や目撃者らの証言から、被告が高速上で計4回の妨害運転を繰り返したと判断し、他の車両との重大な交通事故を招く客観的な危険性を有していたと指摘。「一家4人が死傷したのは妨害運転による危険性が現実化したものとみることができる」と述べた。
あおり運転が原因で尊い人命が奪われた。地裁の訴訟手続きに問題があったからといって、被告の罪が軽くなるわけではない。判決は妥当である。一方、裁判のやり直しで遺族に大きな負担を掛けたことを地裁は猛省しなければならない。
この事故をきっかけに道路交通法が改正され、急ブレーキや急な車線変更など10類型を対象とした「あおり運転罪」が創設された。自動車運転処罰法も改正され、走行中の車の前で停車し、進行を妨げる行為などを「危険運転」に加えた。
あおり運転罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、高速道路で停車させるなど著しい危険を生じさせた場合は5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される。1回で即免許取り消しとなる。
しかし20年6月に施行されてからも、あおり運転は後を絶たない。今年3月には堺市で、あおり運転をした上で車をバイクに衝突させ、乗っていた男性を殺害したとして、介護士の男が殺人容疑で逮捕された。
証拠の映像残したい
警察庁によると、あおり運転は昨年1年間で全国で96件が摘発されたが、このうち26件は高速道路で停車させるなど特に悪質なケースだった。警察当局は、あおり運転の被害を受けた場合は安全な場所に避難して通報するとともに、ドライブレコーダーなどで映像を残すよう呼び掛けている。
摘発された事案の多くは映像が重要な証拠となっている。ドラレコの活用は一定の抑止効果があると言えよう。官民を挙げて防止に取り組む必要がある。



