【社説】ネットの自由宣言 「デジタル権威主義」を許すな

バイデン米政権は、自由で開かれたネット空間の推進を目指す「未来のインターネットに関する宣言」を発表した。ウクライナ侵攻をめぐるロシアのニュース検閲や一部サイトの遮断、国内外での偽情報の拡散が発表の背景にある。

中露を牽制する狙い

ロシアはウクライナ侵攻で、情報戦と軍事行動を組み合わせた「ハイブリッド戦争」と呼ばれる作戦を展開。自国民のツイッター利用を制限したり、攻撃の口実をでっち上げる偽情報を流布したりしている。

また中国では、多くの米国発のネット交流サイト(SNS)やネットサービスを利用できず、さまざまな情報が検閲の対象となっている。習近平指導部はネット空間で国民を監視し、反体制の言動にも目を光らせている。宣言にはこうした中露の動きを牽制(けんせい)する狙いがある。

中露のほか、アジアやアフリカなどの強権国家ではネットの自由度が下がっている。米人権団体フリーダムハウスによる「ネットの自由度」の調査では、2020年に「不自由」とされた国の割合は34%に上った。このような国々はネットを商業や文化の道具から国家権力の道具へと変えようとしている。

こうした中、本来は自由で開かれたはずのネットで、政治や宗教などを理由に分断が進む「スプリンターネット」が現実のものとなりつつある。ロシアは既に国内のネット網を世界から遮断する技術を開発したとされている。

スプリンターネットが加速すると、政府は自国内のネットを管理しやすくなる。中国は自国企業を通して国民を監視するために必要な通信機器やソフトウエアを輸出し、強権国家の指導者が国民を弾圧するのを手助けしている。

宣言は「オンラインプラットフォームやデジタルツールが表現の自由を抑圧し、その他の人権や基本的自由を否定するためにますます使用されるようになっている」と懸念を表明。「自由で開かれた安全なインターネットが民主主義の原則を強化する」と明記した。

具体的な目標として、人権と基本的自由の保護や、グローバルで分断のないネット環境の整備などを盛り込んでいる。権威主義的な情報統制に対抗する上で宣言の意義は大きい。

バイデン政権は宣言発表に合わせて対面およびテレビ会議形式で国際会議を開催し、民主主義の価値観に基づく世界共通の新たなデジタルルール構築に向けた取り組みの開始を表明。バイデン政権が昨年12月に主催した民主主義サミットの招待国や先進7カ国(G7)を中心とする約60カ国・地域が支持した。この中にはウクライナや台湾も含まれる。

日本と欧米は尽力を

バイデン大統領は民主主義サミットで、中露を念頭に「(民主主義を脅かす)権威主義を押し戻す」と訴えた。宣言は、民主主義と権威主義との闘いがネット空間にも広がっていることを示している。

中露などの「デジタル権威主義」を容認せず、ネット空間の自由を守るため、日本は欧米と共に尽力すべきだ。