
詩情あふれるパリの街角を描き30歳の若さで他界した洋画家、佐伯祐三の作品100点余を一堂に集めた「佐伯祐三―自画像としての風景」展が、東京・丸の内の東京ステーションギャラリーで開かれている(4月2日まで)。
25歳で東京美術学校を卒業しパリに渡った佐伯は、フォービズム(野獣派)を牽引したヴラマンクに自身の絵を見せ、「アカデミズム!」と激しく批判され衝撃を受ける。以来さまざまな画家の影響を受けながらも、独自の芸術を追求し続けた。
古びた白壁に靴が並べられた、パリの靴屋の店先を描いた「コルドヌリ(靴屋)」など、パリの古びた建物の壁、場末の街角を描いた作品が多数展示されている。斬新な造形センスと、詩情の漂う名品が多い。広告の文字が作り出す味わいも発見し、それを作品にした「ガス灯と広告」「裏町の広告」なども見逃せない。
日常的な風景に詩と美を発見した佐伯は、日本でも自宅近くの新興住宅街を描き、「下落合風景」など味わいのある風景画を残した。
死への不安の中で、生き急ぎ、描き急いだ佐伯の作品はどれも、独特の翳(かげ)りとパセティックな雰囲気が漂っている。実際、佐伯のフランス滞在期間は前後合わせて3年間ほどだ。しかし、その短い期間に世界の多くの画家たちが集ったパリで、誰も気付かなかった美を発見し、それを作品の中で表現した。本展で、その稀有(けう)な画業のほぼ全貌に触れることができる。
(藤橋進)



