ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展

蒐集家の審美眼光る逸品揃い

詩情漂うクレーの作品も34点

展示されたパブロ・ピカソ「黄色いセーター」(1939年)

ドイツ生まれの美術商ハインツ・ベルクグリューン(1914~2007年)が、蒐集(しゅうしゅう)したピカソやクレーなど20世紀絵画のコレクションを中心にした「ピカソとその時代ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」が東京・上野の国立西洋美術館で開かれている(来年1月22日まで)。

ベルクグリューンは1948年からパリで画廊を営む傍ら、自分のためにも絵画を蒐集。それらを生まれ故郷ベルリンで公開したものをドイツ政府が購入し、2004年、収蔵した建物をベルクグリューン美術館と改称した。同美術館の改修を機に、収蔵品から97点が日本で公開されることとなった。

ベルクグリューンが蒐集したのは、ピカソ、マティス、クレー、ジャコメッティという20世紀美術を代表する4人の作品。画商が自分のために集めた作品とあって、大きくはないけれど手元に置いて日がな眺めていたくなるような、蒐集家の審美眼が光る逸品ぞろいだ。

深みのある赤を背景に、もの思わしげなサーカス芸人を描いたピカソの「座るアルルカン」。20世紀絵画の記念碑的作品となる「アビニョンの娘たち」のための習作として描かれた「女の頭部」も、黒人彫刻からインスピレーションを受けた力強い造形美を備えた小品だ。

キュビスム時代後期の静物画も魅力的なものが多い。セザンヌの影響から生まれ現代美術の扉を開いたこの運動だが、初期は理論先行で作品としての魅力は乏しい。しかし後期になると、今展の「青いギターのある生物」のような、装飾的な画面構成で色彩も豊かな作品が生まれる。ベルクグリューンは、キュビスムの美術史的な意義を理解しながらも、手元に置いて鑑賞する作品は、自分の審美眼と好みに従って集めたことが分かる。

「緑のマニキュアをつけたドラ・マール」「黄色いセーター」などは、愛人のドラ・マールをモデルにしたもの。1人の女性を描くにしても、スタイル、イメージをさまざまに描き分けていたのには改めて驚かされる。それができたピカソはやはり天才と言うしかない。

ピカソと共にコレクションのもう一つの柱となったクレーの作品も34点が展示されている。一つ一ついわくありげで不思議な詩情が共通する魅力に思われた。

(特別編集委員・藤橋進)