企画展「能楽FOUR SEASONS-春・夏編-」

うつろいを詩情豊かに表現

金沢市の金沢能楽美術館では、企画展「能楽FOUR SEASONS-春・夏編-」が開かれている。能楽には日本の四季のうつろいが、自然の景物とともに詩情豊かに表現されている。現行の約180曲のほとんどが、「春夏秋冬」に分類され、「季不定」の能は15曲ほどしかない。

「西行桜」「桜川」など、美しくもはかない桜は春の演目をドラマチックに彩り、帝(みかど)への氷献上が題材の「氷室」は、蒸し暑い季節に、長寿の霊験あらたかな涼を届けてくれる。また、華麗な能装束や扇には、春爛漫(らんまん)の桜花から、薫風に揺れる藤、繁茂する鉄線花といった多彩な自然がちりばめられ、まるで季節をまとうかのようだ。

同展では能楽の中の春と夏を能面・能装束の名品と共に紹介し、その繊細優美な美意識に触れてもらう。さらに、金沢を拠点に活躍する能面師・後藤祐自氏(65)による名物面の写しや、修復を終えたばかりの加賀宝生・木谷家所蔵の能面5面も特別展示している。

ちなみに後藤さんは、京都市生まれで金沢美術工芸大卒後、27歳で能面師となり、これまで県立能楽堂の舞台で使われる能面のほとんどを制作してきた。

能面は微笑をたたえたり、力強く目と口を一文字に結ぶなど、多様な表情を持つ神秘的な美しさが時代を超えて受け継がれている。「清楚(せいそ)で気高い表情が素晴らしい」と語る後藤さんは、現在、主に宝生流の能面作りと修復をしている。

展示作品には新たに寄贈された能楽資料も展示されている。開催期間は前期が6月5日(日)まで、後期は6月17日(金)~8月31日(水)。

(日下一彦)