
昨年は、宮城県仙台出身の詩人・土井晩翠(ばんすい)の作詩による名曲「荒城の月」が発表されて120年、また晩翠生誕150年の節目の年だった。それを記念し、仙台文学館(仙台市)では昨年夏から「月」にまつわるエッセー作品(1200字以内)を募集した。全国から206編の作品が寄せられ、当館館長・佐伯一麦(かずみ)氏(作家)による選考の結果、最優秀賞1作品、優秀賞2作品が今春、決定した。
最優秀賞は、木野田博彦さん(63歳、埼玉県さいたま市在住)の「26番目の月」だ。満月から新月へと徐々に細っていく中で、26日目の月は、ちょうど夜明けの光で消えてゆく。それを父親の最後の姿に重ね合わせた。
筆者が不眠症にかかって有明の月を見ていたり、小学校の教員として理科を教えていたという職業柄、描写が具体的で科学的にもよく月を捉えていた点などが評価された。
佐伯館長によれば、応募作の中で多かった内容は、子供の頃に見た月の思い出や、月にまつわる身内や友人の死について書かれたものだった。中には、英語教師時代の夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」と訳したというエピソードにまつわる話が数編あり、興を引かれたという。
佐伯館長は、「月は四季を通して私たちの生活と密接な関わりを持つと同時に、名月など秋を代表する景物である。また、月齢によってその姿を変える様は、古今東西、死と再生の象徴とされてきた。(略)これからも、月を友として暮らしていただけますよう」と選評で記している。
(市原幸彦)



