
全米トップクラスの名門公立高校が、中国軍と結び付きのある大学など中国系団体から100万㌦以上の寄付を受け取っていたことが明らかになり、波紋を呼んでいる。高校にも浸透する中国の影響工作への警戒感が一段と高まっている。(ワシントン・山崎洋介)
米首都ワシントン近郊のバージニア州にあるトーマス・ジェファソン科学技術高校は、STEM(科学、技術、工学、数学)と呼ばれる技術系教育分野に重点を置いたカリキュラムを推進する全米トップクラスの高校として知られる。しかし最近、中国系団体から資金を受け取った問題が浮上し、厳しい目が向けられている。
草の根の保守系団体「教育を守る親の会」(PDE)は8日、入手した資料を基に報告書を発表。それによると、同高校はトーマス・ジェファソン・パートナーシップ基金(TJPF)を通じて、北京にある清華大学から少なくとも25万㌦を受け取り、同高校の教育モデルに基づいた清華大学の付属高校を中国で設立する支援をした。
しかし、清華大学は中国軍との強い結び付きを持つことで知られている。米国防総省は2020年の議会への年次報告書で、中国軍が企業などを利用して近代化を図る「軍民融合」戦略の一環として、清華大学に「軍関連の研究室」を設置していると指摘。また、オーストラリアのシンクタンク、豪戦略政策研究所によると、清華大学が人工知能やミサイルなどさまざまな軍事研究を行っており、07年には機密研究を行うための資格を獲得。少なくとも12年から、国家国防科技工業局による監督を受けている。
TJPFはこのほか、ワシントンに拠点を置く中国系の非営利団体アメソン教育文化交流基金会から25万㌦以上、百貨店経営などを行う中国企業、歳宝百貨からも50万㌦以上を受け取った。ワシントン・エグザミナー紙によると、アメソン創設者兼会長のショーン・チャン氏と歳宝百貨会長のヤン・シャンボ氏は、共に中国政府の対外影響工作を統括する中国統一戦線工作部との結び付きがある。
PDEによると、寄付と引き換えに、こうした中国の団体は、学生、教師、スタッフと接点を持つことができたという。PDE調査研究員のアレックス・ネスター氏は出演したABCニュースで、「中国共産党はわれわれの友人ではなく、自由に対する敵だ」とした上で、「中国が教育内容に影響を与え、授業計画や実験器具などの情報を持ち帰ることは、非常に懸念すべきことだ」と警戒感を露(あら)わにした。
また、PDE代表のニッキー・ネイリー氏はツイッターで、「米国の多くの生徒を引き付ける一流高校が、中国共産党に関連する団体から100万㌦以上の資金を受け取っていることは、恐ろしさを感じさせるものだ」と指摘。トーマス・ジェファソン科学技術高校の学生は、さまざまな連邦政府機関で職場体験プログラムに頻繁に参加しているため、国家安全保障上のリスクもあると訴えた。
米教育機関への中国共産党の影響工作を巡っては、大学内の孔子学院を閉鎖する動きがトランプ前政権時に加速した。今回、名門高校にも浸透していたこと明らかになったことで、警戒感が一段と高まっている。
ポンぺオ前国務長官はツイッターで、「中国側がPTAの会合にプレーグラウンドを設置するための小切手を持って現れた時、彼らは米国の子供たちを助けようとしているのではない。それは影響工作だ」と述べ、中国側の意図に注意を促した。
共和党のグレン・ヤンキン知事の下で左派的な教育内容の見直しを進めているバージニア州も対応に動いており、エイミー・ギデラ州教育長官は15日に同高校のあるフェアファックス郡内の学校に対し、中国共産党との関係を断つよう指示。また、州全体で各学校と中国共産党とつながりがある団体との間に同様の関係がないか調査を開始した。



