中国が仕掛ける「逆アヘン戦争」米で薬物中毒死が急増

メキシコ麻薬組織を経由

フェンタニルは「大量破壊兵器」

トランプ前政権の駐日大使時代にトランプ大統領と習近平・中国国家主席の電話会談に立ち会ったビル・ハガティ上院議員も、「習氏は決してメキシコへの輸出を止めることに同意しなかった」と証言している。

これに対し、バイデン米政権は中国が薬物戦争を仕掛けていることにさえ気づいていないかのようだ。バイデン政権の緩い国境管理政策は、不法移民のみならず違法薬物の流入を招いているが、危機感は薄い。

米税関・国境警備局(CBP)が2021会計年度(20年10月~21年9月)に南部国境で押収したフェンタニルは前年度の2倍以上に増えた。今年7月の押収量は前月から約3倍増の940㌔に上り、これは実に4億7000万人を死に至らせる量だという。押収量が増えたことは、押収されずに流入した量も比例して増えていることを意味する。

CBPは押し寄せる不法移民への対応に追われ、違法薬物の密輸対策に十分な資源を割くことができないでいる。麻薬カルテルは不法入国者の集団を送り込み、CBP職員を釘付けにした隙に密輸するという手口まで使っている。

「死の津波が南部国境を越えて米国に押し寄せている」。メキシコと国境を接するテキサス州の警察関係者はニューヨーク・ポスト紙にこう語り、国境を強化しないバイデン政権の不作為が多くの国民に死をもたらしていると強い不満を示した。お菓子のようにカラフルにコーティングされたフェンタニルも出回っており、若者がターゲットになっている実態が浮かび上がる。

中国は先月、ペロシ米下院議長が台湾を訪問したことに対する報復として、米国との軍事分野の対話停止など8項目の措置を発表したが、この中には麻薬対策協力の停止も含まれる。米ホワイトハウスのラフール・グプタ国家薬物取締政策局長は、WSJ紙への寄稿で「中国の原料で合成されたフェンタニルなどが世界で溢(あふ)れ続けるだろう」と警告するなど、さらに多くのフェンタニルが流れ込んでくると予想されている。

トランプ前政権で国家薬物取締政策局長を務めたジェームズ・キャロル氏は、フェンタニルを「大量破壊兵器」と呼ぶなど、安全保障上の脅威と位置付ける見方が出ている。バイデン政権は中国との協力に比重を置いているが、前出のアッシャー氏は密売に携わった組織や業者に対する訴追や制裁など徹底的な取り締まりを進めるべきだと主張している。