
2020年の米大統領選前に、連邦捜査局(FBI)が、当時民主党候補だったバイデン大統領の息子ハンター氏をめぐる疑惑情報について不当に「偽情報」だと認定し、捜査を停止させた疑いが出ている。共和党上院議員が、内部告発者からの情報として明らかにした。FBIが大統領選前にバイデン氏に不利になる疑惑の「封殺」に関与していた可能性が浮上している。(ワシントン・山崎洋介)
20年大統領選の最中、バイデン氏に付きまとっていたのが、ハンター氏のウクライナや中国におけるビジネスをめぐる疑惑だ。特に投票日の約3週間前の10月中旬、ニューヨーク・ポスト紙がハンター氏のものとされるパソコンから見つかったメール内容を公開し、ハンター氏が副大統領だった父親をウクライナ企業顧問に引き合わせていたことなどを報じると、保守系メディアが追及を強めた。
一方、リベラル系メディアはほとんど黙殺するか、ロシアの偽情報の可能性を指摘するなど、報道内容の信頼性に疑問を投げ掛けた。さらにオバマ政権時代に中央情報局(CIA)長官だったレオン・パネッタ氏ら51人の情報機関関係者は、20年10月19日に発表した声明で、この報道には 「ロシアの情報工作のあらゆる典型的特徴」が見られると断言した。
しかし大統領選後にハンター氏のノートパソコンから見つかった電子メールなどが本物であるとの見方が広がり、今年3月には、リベラル系のニューヨーク・タイムズ紙とワシントン・ポスト紙が相次いで本物であることを認めた。
こうした中、ハンター氏の疑惑をめぐる調査をしてきた共和党のグラスリー上院議員は、ガーランド司法長官とFBIのレイ長官に宛てた7月の書簡で、驚くべき指摘をした。「信頼性の高い内部告発者たち」から得た情報として、FBI本部のチームがハンター氏に関する立証された疑惑情報を「偽情報」として不当にレッテルを貼り、捜査活動を停止させたというのだ。
さらに、同じくハンター疑惑の調査をしてきた同党のジョンソン上院議員は8月中旬、内部告発者からの情報として、ハンター氏のノートパソコンを19年12月に入手しながら、FBI指導部は職員に大統領選後まで調査しないように命じたと明らかにした。ジョンソン氏は「FBIの腐敗のさらなる証拠を示すものであり、ノートパソコンに関するFBIの行動を直ちに調査すべきだ」と問題視した。
この背景には、司法省職員の間に反トランプの政治的偏向があったことが指摘されている。米メディアによると、ハンター氏への捜査活動の停止を命じたとされるFBI職員だったティモシー・ティボー氏は、ソーシャルメディアでトランプ前大統領を批判する投稿をしていた。FBIのレイ長官は、8月上旬に議会で、こうした投稿を「非常に厄介な問題」であると述べた。共和党議員やメディアからの批判が高まる中、ティボー氏は、8月下旬にFBIを退職した。
ソーシャルメディア大手のメタ(旧フェイスブック)の最高経営責任者(CEO)、マーク・ザッカーバーグ氏は、ラジオ番組のインタビューで、20年の大統領選挙直前にFBIから「ロシアによるプロパガンダ」に気を付けるよう警告を受けた後、ニューヨーク・ポスト紙の記事の共有を制限したことを明らかにした。
グラスリー、ジョンソン両議員はこの発言を受け、ザッカーバーグ氏に書簡を送り、「米国民は、FBIがハンター・バイデン氏に関する情報の信用性を損なう計画の一環としてフェイスブックを利用したのかどうかを知るに値する」と指摘。ザッカーバーグ氏に、すべての関連情報を提供するよう求めるなど問題への追及姿勢を強めている。
保守系の「メディア・リサーチ・センター」が大統領選後に行った世論調査によると、バイデン氏に投票した有権者の45%がハンター氏のノートパソコンをめぐる疑惑を知らなかったと回答。このうち16%がそのことを知っていたら、バイデン氏に投票していなかったと述べた。フェイスブックやツイッターによる共有の制限や禁止がなければ、選挙結果は違っていた可能性もあり、FBIの関与について真相を明らかにすることが求められる。



