
【ワシントン山崎洋介】米最高裁判所は24日、人工妊娠中絶を憲法上の権利とした1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆すことを決定した。これにより、中絶の是非については、個々の州の判断に委ねられることになった。米国で国論を二分する中絶問題で約50年ぶりの歴史的な判例変更となり、11月の中間選挙でも争点となる見通しだ。
最高裁は今回の判断で、「ロー判決は最初からひどく間違っていた。その論拠は非常に弱く、有害な結果をもたらした」と指摘。その上で、「中絶を規制する権限は国民とその選出された代表者に返還されるべきだ」と述べた。
ロー判決を覆すことに賛成したのは保守派判事のうち5人。最高裁はトランプ前大統領が在任時に保守派判事3人を指名したことで、保守派とリベラル派が6対3と保守派優位の構成となっていた。
最高裁は、妊娠15週以降の人工妊娠中絶を原則禁じる南部ミシシッピ州の法律の合憲性について審理していた。この中で、胎児が子宮外で生育可能になる24週ごろまでの中絶を憲法上の権利としたロー判決を覆すかが最大の焦点となっていた。

今回の決定を受け、バイデン大統領はホワイトハウスで演説し、「きょう、最高裁は、すでに認めていた憲法上の権利を米国民から明確に奪った」と批判。その上で「国にとって悲しい日だが、戦いが終わったわけではない」として、議会で中絶の権利を成文化するため中間選挙での投票を呼び掛けた。
一方、トランプ氏は24日の声明で、「今日の決定は生命にとって一世代で最大の勝利だ。それは私が非常に尊敬された憲法を擁護する判事を指名し承認させるなど、公約をすべて実現したからだ」と自身の実績の一つとして強調した。その上で「この大きな勝利は、たとえ急進左派がわれわれの国を破壊するために全力を尽くしているとしても、米国を救う希望と時間がまだあることを証明している!」と訴えた。
米メディアによると、13州は、同判決が覆された場合に自動的に中絶を原則禁止する「トリガー法」が成立している。一方、16州と首都ワシントンはすでに中絶の権利を州法に成文化している。
同裁判をめぐっては、米政治専門紙ポリティコが、判事の多数派意見書の草案を入手し、スクープ。保守派5人がロー判決の無効化に賛成していると報じた。
これを受け、中絶支持派による抗議行動が各地で活発化。一部が過激化し、妊娠中絶に反対する医療機関や教会などを標的に、窓を割ったり、壁にスプレーをかけるなどの破壊行為が相次いだ。
5人の保守派判事の自宅前でもデモが行われ、ブレット・カバノー判事の自宅前では銃などの武器を所持したカリフォルニア州の男が逮捕され、殺人未遂の容疑で起訴された。



