エルサレムに「アブラハム和平」を 衝突繰り返すイスラエルとパレスチナ

6日、イスラエル軍の空爆を受け、煙が上がるパレスチナ自治区ガザ(AFP時事)

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の3大一神教の聖地だ。そのエルサレム旧市内のイスラム教聖地のある「アルアクサ・モスク」周辺で5日夜(現地時間)、イスラエル治安部隊とパレスチナ人らが衝突を繰り返した。

イター通信によると、神殿の丘でイスラエル警察とパレスチナ人の間で、2夜連続の衝突が発生した。警察隊は「アルアクサ・モスク」に潜伏する過激派を追放する際、彼らはスタングレネードとゴム弾で抵抗したという。

イスラエルのネタニヤフ首相は「過激派が武器、石、爆竹でそこに身を固めている。われわれは信教の自由と神殿の丘協定を守り続けている」と述べた 。目撃者の話によると、過激なパレスチナ人はガザ地区からイスラエルに向かってロケット弾を発射した。イスラエル空軍は武器が生産されているイスラム主義グループのハマスの拠点を爆撃した。イスラエル警察によると、 350人以上が逮捕され、連行された。救助隊員によると、イスラエルの治安部隊を含む数十人が負傷した。

オーストリア国営放送のティム・クーパル・エルサレム特派員は5日、「ネタニヤフ右派政権は政権発足直後から司法改革でつまずき、国内で現政権に抗議するデモが連日行われるなど、政治的には守勢に回っている。一方、ヨルダン自治区のパレスチナ自治政府はその政治力を失っている中、ガザ地区を支配するハマス勢力はこのチャンスを生かして反イスラエルを叫び、人々に戦いを呼び掛けている」と報じていた。

ところで、イスラム教は先月21日から1カ月間余りラマダン(断食の月)に入り、日の出から日の入りまで食を断つ期間だ。一方、ユダヤ教徒は今月5日から13日まで過越祭だ。キリスト教徒は9日、年最大の行事、復活祭を祝う。その3大宗教行事を挟んで、イスラエルとパレスチナ間で衝突が繰り返され、死傷者が出ている。

アントニオ・グテレス国連事務総長は「ユダヤ人、キリスト教徒、イスラム教徒にとって聖なる時期であり、平和と非暴力の時期であるべきだ」と指摘している。

「ラマダン」はイスラム教徒の五行(信仰告白、断食、礼拝、喜捨、巡礼)の一つだ。イスラム教徒は日の出から日の入りまでの間、断食し、身を清める。

ユダヤ教の「過越祭」はユダヤ教の春の四つの祭りの一つで、「ペサハ」と呼ばれる。旧約聖書「出エジプト記」に記述されている。エジプトで400年間余り、奴隷として苦役していたユダヤ人を解放するために神はモーセを遣わしたが、エジプトの王ファラオは拒否した。そこで神は10の災いをエジプトに下す一方、子羊かヤギのうちから傷のない1歳の雄を取り屠(ほふ)り、その血を家の入り口の2本の柱と鴨居に塗るようにユダヤ人に命令する。その夜、神様はエジプトの国を巡り、人と家畜の初子の命を取るが、家の入り口の血を見たときは、神様はその家を過ぎ越した。ファラオはユダヤ人がエジプトから出ていくことを許す。それ以来、この日はユダヤ人にとって記念すべき日となり、主の祭りとして祝われてきた。

最後に、キリスト教の「復活祭」(イースター)は、イエスが十字架上で人類の罪を背負って亡くなった3日後、復活し、死を乗り越えて神のみ言葉を伝えていったことを祝う行事だ。その日が9日に当たり、ローマ教皇が世界に向かって発信する。

エルサレム問題は、政治的観点からだけではなく、その宗教的背景を考慮して3宗派の統合を図る方向で解決すべきだろう。預言者洗礼ヨハネは、「自分たちの父にはアブラハムがあるなどと、心の中で思ってもみるな。おまえたちに言っておく、神はこれらの石ころからでも、アブラハムの子を起こすことができるのだ」(「マタイによる福音書」第3章9節)と諭している。エルサレムを管理できる者は神の前に謙虚にその御心をなす者のものだ、という意味になるわけだ。

「ラマダン」、「過越祭」、そして「復活祭」と一連の宗教行事が続く中、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト信者たちの宗教心がいやが応にも高まる時だ。この期間、武器や石をもって相手に立ち向かうのではなく、アブラハムを「信仰の祖」とする兄弟宗教であることをもう一度思い出したい。そして「ラマダン和平」や「イースター休戦」ではなく、「アブラハム和平」の実現だ。(ウィーン・小川 敏)