
サウジアラビアとイランが10日、中国の仲介により外交関係の正常化で合意した。対立を続けてきた両国の代理戦争ともいえるイエメン内戦に終止符が打てるか。両国の緊張緩和で、イエメン内戦に重大な影響を与える可能性がある。(エルサレム・森田貴裕)
世界最悪の人道危機を引き起こしたイエメン内戦は、今月で8年を迎える。イランは長年にわたってイエメンの反政府武装組織フーシ派を軍事支援してきた。一方、サウジ主導の有志連合軍がイエメン暫定政府を支援している。フーシ派はサウジの石油施設などへ越境攻撃を開始、イエメン全土の支配を目指し、21年から産油地帯にあるイエメン暫定政府軍の拠点であるマーリブの奪取を狙い激しい戦闘を展開していた。暫定政府とフーシ派は昨年4月、国連の仲介により一時的停戦で合意、戦闘は激減した。2カ月置きに更新し延長してきたが、10月に期限切れで失効。現在もフーシ派による断続的な攻撃が行われている。

国営イラン通信(IRNA)は12日、国連イラン代表部の声明を引用して、「サウジとイランとの合意は、失効した停戦協定を更新する取り組みを促し、紛争当事者間の対話の開始につながり、包括的なイエメン国家の形成に役立つ」と伝えた。
フーシ派は、「この地域の安全は、米国が支援する有志連合軍の介入によって失われた」として米国を非難。「イスラム諸国が安全を取り戻せるように、国家間の正常な関係を修復する必要がある」と述べた。
暫定政府は声明を発表し、「われわれの立場は、言葉や主張ではなく、行動と実践による」と述べ、イランの行動に真の変化が見られるまでは慎重に進めるとしている。
英紙ガーディアンによると、サウジとイランの緊張緩和で、イエメン内戦に重大な影響を与える可能性が高い。サウジとフーシ派の間の和平交渉が加速し、暫定政府や分離独立派など他のグループが締め出される可能性があるという。
サウジは昨年10月以来、オマーンでフーシ派と非公式に秘密の直接交渉を行ってきたが、イエメン南部の分離独立を主張する武装勢力「南部暫定評議会」(STC)は、交渉が行政や安全保障の問題にまで及ぶ場合、いかなる合意にも拘束されないと主張する。STC議長のアミル・アルビダ特別代表は、内戦終結のための交渉について「公式なブリーフィングも何もない」「既成事実が提示される可能性がある」と述べた。STCは、秘密会談が、信頼醸成措置やフーシ派の支配地域とサウジとの国境に限定されるのであれば、異議はないとしている。
フーシ派は停戦の延長と引き換えに、首都サヌアの空港や西部のホデイダ港に課されている制限の撤廃、暫定政府への支援停止、軍事および治安サービスを含む全国の公務員給与の支払い、国内の再建費用をサウジ側に要求している。
イエメンのシンクタンクであるサヌア・センターは、サウジとフーシ派だけの会談の危険性を警告する。イエメン市民の利益ではなく、自分たちだけの利益になる取引を行う可能性は十分にあり、結果として不安定な政治体制が制度化されれば、最終的に平和ではなく、さらなる暴力を招く可能性があるという。
イランは、中国の仲介で親米サウジを取り込んだ。イスラエルや米国主導の「イラン包囲網」に対抗し、包囲網崩しに動いているようだ。



