
和平交渉再開呼び掛けも
イスラエル軍による対テロ作戦が続けられているパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のジェニンで1月26日、イスラエル軍が急襲作戦を実施し、パレスチナ人9人が死亡した。翌27日には、東エルサレムのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)でパレスチナ人による銃撃があり、イスラエル人7人が死亡する事件が発生した。イスラエルとパレスチナ双方による暴力や報復が激化し緊張が高まっている。(エルサレム・森田貴裕)
東エルサレムのユダヤ人入植地にあるシナゴーグで27日夜、パレスチナ人の男(21)が歩行者や礼拝所から出てきた人々を次々に銃撃し、イスラエル人7人が死亡、3人が負傷した。男は車で逃走したが、駆け付けた警官との銃撃戦の末に死亡。男は単独で犯行に及んだが、警察は男の家族らパレスチナ人42人を拘束した。翌28日朝には、エルサレム旧市街近くで、13歳のパレスチナ人少年がユダヤ人グループに銃を発砲し、2人が負傷する事件も発生した。

これに先立つ26日、ジェニンの難民キャンプではイスラエル軍が対テロ急襲作戦を実施し、民間人を含むパレスチナ人9人が死亡した。イスラエル軍は、武装組織「イスラム聖戦」が予定していたテロ攻撃を阻止するため、急襲作戦を行ったとしている。
イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区からは、27日にかけてイスラエル南部に向けロケット弾数発が発射された。イスラエル軍は報復としてハマスの地下施設を空爆した。
イスラエル軍の急襲作戦を受け、パレスチナ自治政府はイスラエルとの治安協力を停止すると表明。アッバス自治政府議長は声明で、「国際社会が沈黙する中、イスラエルが虐殺を行っている」と非難した。
パレスチナ人アナリストのオデ氏は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「自治政府だけではパレスチナの治安の確保は難しい」と指摘する。「パレスチナの政治指導者がすべきは、まず政治の混乱を正すことだ」と述べた。
イスラエルとパレスチナの暴力の激化に、世界中から反応の声が上がっている。
欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は、シナゴーグでのテロ攻撃について、「非常識な暴力と憎悪の行為だ」と強く非難した。イスラエル軍の急襲については、「EUはイスラエルの安全保障上の懸念を認識しているが、致命的な武力は、生命を守るための最後の手段としてのみ行使されるべきだ」と述べた。また、すべての当事者に対し和平交渉再開のために努力するよう呼びかけた。
バイデン米大統領はイスラエルのネタニヤフ首相と電話で会談し、シナゴーグでの銃撃事件を「文明世界に対する攻撃だ」と批判。「イスラエルを適切な手段で支援する」と伝えた。
ロシアのラブロフ外相は、イスラエルとパレスチナの暴力激化について「深い懸念」を表明、双方に最大限の自制を示すよう呼びかけた。また、和平プロセスをできるだけ早く再開させるためとして、「ロシアは、中東カルテットの一員として、国連、EUおよび米国と共に、紛争の包括的な解決に向けて取り組む用意がある」と述べた。
元パレスチナ自治政府閣僚で和平交渉も担当し、ビルゼイト大学で現代アラブと国際関係の講師を務めるハティブ氏はメディアラインで、「中東カルテットからの即時介入がなければ、状況はさらに混乱に陥る」と警告する。
対パレスチナ強硬路線を取る極右連立政権を率いるネタニヤフ首相は、「テロを支援する家族は罰する」として、社会保障や居住ビザの取り消しなどを決定。「民間人の手に武器があれば命を救えた」と述べ、民間人が武装できるよう、銃の取得許可手続きの簡素化を進めている。
イスラエルとパレスチナ双方が憎悪を募らせている状況にあり、今後も暴力や報復の連鎖が続く可能性がある。



