中国、アフガンの油田開発契約へ 膨大な鉱物資源確保に着手

外交望むタリバン暫定政権

2022年3月24日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のムッタキ外相代行(左)と、カブールを訪れた中国の王毅国務委員兼外相(タリバン外務省提供)(AFP時事)

アフガニスタンのタリバン暫定政権が中国企業と油田開発契約を結ぼうとしている。2021年8月の政権奪取後、初となる海外企業との大規模資源開発契約だ。米軍の撤退を受け、中国政府はアフガンに眠る膨大な鉱物資源へ手をかけ始めた。(池永達夫)

中国は公式にはタリバン暫定政権を認めていないものの、国策となったユーラシア経済圏構想「一帯一路」を推進していく上で地政学的要衝にあるアフガンを外すわけにはいかず、米軍撤退後の同国で影響力を高める組み込み戦略を取っている。今回のアフガン北部アムダリヤ盆地の油田開発契約は、四半世紀の契約期間で当初の投資額は年1億5000万ドル(約195億円)、その後増額し3年間で計5億4000万ドル(約704億円)に積み上げる方針だ。

タリバン暫定政権の出資比率は当初、20%ながら75%まで引き上げることができるとされる。同政権はこの事業で3000人規模の新規雇用が図れると算盤(そろばん)を弾いている。米軍を追い出したタリバン暫定政権は、資産凍結を含む米欧の経済制裁を受け、西側諸国からの援助資金流入は事実上途絶えたままだ。

「金鉱の上で眠る貧者」とされる資源国家アフガンには石油や天然ガスのほか、金、銅、鉛、ニッケル、リチウムなど巨大な地下資源が埋蔵されている。

中国商務省が20年公表した報告書では、その地下資源の資産規模を3兆ドル(330兆円)以上と算盤を弾いた。

タリバン暫定政権は、この地下資源をバーゲニングパワーに使って不足する外貨を入手するとともに、閉塞する外交ルートを切り開きたい意向がある。また、外資の入った鉱山会社立ち上げに必須となる電力や鉄道、道路網といったインフラ整備にも期待を寄せる。

一方、一帯一路構想を推進中の中国にとって、アフガンの資源にアクセスしユーラシア大陸要衝の地を押さえることができる地政学的意義は大きなものがある。その一つが、新疆ウイグル独立を掲げる東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の国内での抑え込みだ。

21年の首都カブール制圧前からタリバン幹部は、武器調達などを目的に中国を頻繁に訪問していた。中国はそのタリバンに対しETIMが同国の国家安全保障を揺るがしかねない直接的脅威だとし、タリバンによる取り締まりを要請。ETIMが、タリバン支配地域を隠れ蓑(みの)に使えないよう釘(くぎ)を刺した経緯がある。

その意味では、タリバンと中国の関係は歴史的なものがある。

だからこそ、タリバンが雪崩を打ってカブールに攻め込んだ時、わが国をはじめ米欧大使館が慌ただしく撤収に動いたものの、中国大使館はじっと静観したままだった。タリバンが中国大使館に銃口を向けることはないと確信していたからだ。

この時、ロシア大使館も中国大使館同様の確信を得ており、撤収に動くことはなかった。ロシアはタリバンが反政府武装勢力だった時代から、石油供給を通じ財政支援をしてきた経緯がある。その延長線上でロシアは昨年10月、タリバン暫定政権に対し石油製品や小麦を割安で提供することで合意した。

だが、そもそもタリバンの発足は、1979年のソビエト連邦のアフガン侵攻に起因する。ソ連に侵略されたアフガン救出という旗印の下、アラブを中心にイスラム社会全体から義勇兵がアフガンに集結したことで、タリバンが結成されていったからだ。そのタリバンがロシアと手を結び、さらに新疆ウイグル自治区でイスラム教徒に弾圧の鞭(むち)を振るう中国との関係強化に動く。

アフガンの深い渓谷は、見えにくい闇を持つ。