イラン空爆想定し共同軍事演習 米・イスラエル

核合意再建交渉は膠着状態

イラン中部ナタンズにある核施設のウラン濃縮設備=イラン原子力当局が2019年11月に公開(AFP時事)

イランが11月、核施設で新たに濃縮度60%のウラン製造を始めた。バイデン米大統領が目指す核合意再建交渉が行き詰まる中、イスラエル軍と米軍によるイランとその代理勢力に対する空爆を想定した共同軍事演習が実施された。一方のイランは、イスラエルへの攻撃リストを公表した。イランの核開発をめぐり中東で緊張が高まっている。(エルサレム・森田貴裕)

イランは11月22日、中部フォルドゥの核施設で濃縮度60%のウラン製造を始めたと発表した。イラン核合意は濃縮度の上限を3・67%と制限しており、核合意違反に当たる。イランは昨年4月に中部ナタンズの核施設で濃縮度60%のウラン製造を開始している。これまで、核兵器開発の意図はなく、すべての原子力活動は平和目的であると主張してきた。しかし、国際原子力機関(IAEA)の報告書は、イランには少なくとも核弾頭1発を製造するのに十分な濃縮度60%のウランがあると警告している。イスラエルのガンツ国防相は12月1日、「もしイランが核爆弾を造る気になれば、2週間以内に核爆弾を保有する可能性がある」と述べている。

イラン核合意の再建交渉は9月以来膠着(こうちゃく)状態に陥っている。イランはバイデン米政権に、IAEAに対しイランの原子力活動に関する調査を打ち切るよう圧力をかけるよう要求したが、米政権は、この要求を拒否する構えだ。また、イランは、核合意から米政権が再び離脱することがないという誓約を求めたが、米政権は、将来の政権を拘束する方法はないとしている。イランの要求を米政権が拒否した形で、交渉は既に終了したとみられる。

イランの核関連施設

バイデン米政権が目指していたイラン核合意の再建交渉の失敗が明らかとなってきた今、イランに対する軍事攻撃の可能性が現実味を帯びてきた。イスラエル軍と米軍は11月末、地中海上空でイランとその代理勢力に対する攻撃をシミュレートした共同軍事演習を実施した。演習には、両国の空軍の戦闘機や空中給油機が参加した。

共同軍事演習に先立ち、イスラエル軍のコハビ参謀総長は21日、米国防総省やホワイトハウスを訪れ、米政府関係者らと会談を行った。コハビ中将は一連の会談の後、「われわれは、イランとその代理勢力などテロリストに対し、協力を必要とする非常に重要な局面を迎えている」と述べた。翌22日にイスラエル軍は、近くイランとその代理勢力への空爆を想定した米軍との共同軍事演習を実施すると発表した。イスラエル軍は5月末に、地中海上空で、空中給油など長距離目標への空爆を含む軍事演習を行っている。

イスラエル軍のハリバ参謀本部情報局長は21日、テルアビブ大学国家安全保障研究所(INSS)で行われた年次会議で、「イランがサウジアラビアやイスラエルなどへの攻撃強化を計画している」と警告。イランとの直接対決の可能性について言及し、「イランの代理勢力を解体するための攻撃準備はできている」と述べ、国際社会に、イランの核開発計画を抑制するよう呼びかけた。

一方、イランのタスニム通信は11月28日、将来の戦争で標的となる可能性のあるイスラエルの施設のリストを公表した。リストには、イスラエルの軍事基地のほかに、ハイファにある防衛関連企業のラファエル社やテクニオン・イスラエル工科大学、テルアビブ近郊にあるワイツマン科学研究所やベングリオン国際空港、南部エイラート近郊にあるラモン国際空港などが含まれている。

ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスは前回の紛争で、ラモン国際空港を標的にロケット弾を発射するなどの攻撃を行った。紛争の間、ラモン国際空港の運営が一時的に中断された。レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラは、イスラエルの海岸沖にある天然ガス掘削装置やハイファ近郊の工業地域などを標的に攻撃すると脅迫している。イランは、ヒズボラにイスラエルを攻撃することができるドローン(無人機)や精密誘導ミサイルなどのハイテク兵器を供給したいと考えている。近年、ハマスやヒズボラと緊密に連携しているとみられ、イスラエルへの偵察ドローンの飛来が増加している。

イラン核合意再建に反対し、米政権に軍事的対応を求めてきたイスラエルは、イランの核兵器保有を阻止するため、ここ2年間、大規模な戦争の準備を加速させている。