【ポイント解説】正恩氏は“独り立ち”したのか
独裁者の国のメディアは独裁者の動静を報じる時には細心の注意を払う。過誤があれば当事者はもちろんのこと責任者や組織までが処罰されるからだ。
北朝鮮の国営朝鮮中央テレビや労働党機関紙労働新聞は民主世界のメディアとはまったく違い、「偉大な領導者」金正恩党総書記の消息を国民に伝え、この指導者の統治によって国がいかにうまくいっているかを伝える宣伝機関であるということを知らなければならない。
ところで金総書記の指導者としての正統性の根拠は何か。金日成主席、金正日総書記を継ぐ「白頭の血統」であるということだ。政治活動や軍隊をまったく経験していない彼が“優れた指導者”と認められるのはこの血筋の故なのだ。
従って金正恩氏が権力の座を維持するためには、祖父、父の偉大性を繰り返し国民に想起させ、祖父、父の命日には先頭に立って参拝することで後継者の地位を確認させなければならなかった。
ところが今年は金主席の命日に参拝する金正恩氏の姿は報じられなかったことで韓国のメディアをざわつかせた。これは北メディアの落ち度ではなく、事実がなかったのだ。本来なら「不孝者」の誹(そし)りを免れないところだが、彼は今やその批判を撥(は)ね退(の)けるだけの“実績”を国民の前に突き付けることができた。大陸間弾道ミサイルの成功であり、核弾頭の完成が近いことだ。
祖父も父も実現できなかった核保有国の地位を金正恩氏は実現させようとしている。いわば祖父と父を超えたのだ。2人の指導者を超越したことを象徴的に知らせたのが「参拝せず」だったということである。もちろん本当に独り立ちしたかどうかは今後を見なければならないが。
(岩崎 哲)



