中国の超限戦に無防備な韓国

韓国の尹錫悦大統領=1月25日、ソウル(EPA時事)
韓国の尹錫悦大統領=1月25日、ソウル(EPA時事)

「包括対応体系」の構築急ぐ必要

「超限戦」とは「2000年以来、中国共産党と人民解放軍が全世界を相手に展開する新しい戦争」のことだ。東亜日報社が出す総合月刊誌新東亜(4月号)が「中国の超限戦―新しい戦争の到来」の著者で、その危険性を訴え続けているイ・ジヨン啓明大教授をインタビューし、「超限戦に無防備に露出している韓国」の対応を考えている。

中国大陸と接し、常に政治から軍事、経済、さらに気象や環境まで大きな影響を受けている韓国は中国とどう付き合っていったらいいかを悩んできた歴史を持つ。一方「中国の夢」を掲げ世界覇権を握ろうとの野望を隠さない中国の攻勢は韓国に悩む時間など与えない。まして超限戦は既に始められているとなれば、韓国は「包括対応体系」の構築を急ぐ必要がある。

まず超限戦だが、この言葉は1999年、中国の現役将校が執筆した本で初めて世に出た。書いたのは人民解放軍大佐の喬良と王湘穂で「すべての限界を超越する無制限戦争」という新しい概念を打ち出した。彼らがこれを執筆した背景について同誌は説明している。長くなるが引用する。

「喬良と王湘穂が『超限戦』を執筆した背景には1991年湾岸戦争、95~96年第3次台湾海峡危機が位置している。人民解放軍現役将校だった2人は相手国を圧倒する米国の先端武器の威力を体感し、『伝統的な方式で中国が米国に勝つことはできない』という結論を下した。この中で登場したのが既存の戦争論をひっくり返す超限戦だ。正面勝負では米国に勝つことができないから一種の便法を使わなければならないという論理だ」

手段を選ばないとはどういうことか。東亜日報の論説委員が昨年、「政治、経済、社会文化、メディア、サイバー空間を区別する必要がない。戦時と平時、法と規則、良心も何も問い詰めることもない。戦争と非戦争の境界を飛び越える新概念戦争がまさに『超限戦』の核心だ」とコラムに書いたが、まさにこれである。

さらに超限戦は統一戦線工作、欺瞞(ぎまん)工作を「今日の状況と条件に合わせて継承発展させた」ものだとイ教授は説明し、「当時の最高指導者、江沢民が中国共産党中央軍事委員会副主席らに実際にした話」だと付け加えた。

超限戦は相手を倒すためなら何でもありということだ。外国政府高官や企業幹部へのハニートラップ、在外中国人を監視する秘密警察、文化宣伝を装いながら文化浸透だけでなく諜報(ちょうほう)活動まで担う「孔子学院」、外交官やメディア駐在員の衣を被った共産党工作員、等々、これらは平時での超限戦である。そもそも平時と戦時を分けない。

それで、韓国にもこれらの戦いは仕掛けられているわけだが、それへの対応はどうかと言えば、甚だ心もとない。イ教授は「問題は自身が中国に抱き込まれている事実を認知できない場合が多い」と指摘するが、外から見て韓国はまさにこの状況に当てはまってはいないだろうか。韓国が取る「戦略的曖昧性」がそう映るのだ。

韓国はこれまで「安保は米国、経済は中国」に依存してきた。しかも「韓国の支配論壇では『戦略的曖昧性』とか『中国の世紀到来』等が台頭していた」のである。この「米中間の選択のジレンマ」に陥っていること自体、既に「中国の利害に符合する」すなわち超限戦が奏功していたということだ。

そこでイ教授は「韓国の選択は再論の余地がない」とし、共産党独裁、全体主義、覇権主義を韓国は受け入れてはならないと強調する。

前の政権をはじめとする左派政権は対北朝鮮の観点から中国を頼みにしてきた面がある。経済では対米対日貿易を超える取引を中国と行っている。外交、経済ともに中国への傾斜を高めてきたのだ。

今や韓国は「全領域にわたり包括的対応体制を整えなければならない」とイ教授は訴えつつも、超限戦を「認識するだけで問題は半ば解決される」といささか楽観的だ。その上、具体的な対応策は何も提示していない。歴史的に中国の引力圏から完全に自由になったことがないだけに、超限戦への対応はかなり難しいものとなることが予想される。

(岩崎 哲)