尹大統領の対日融和姿勢

好調な支持率を土台に転換

韓国の尹錫悦大統領が3・1独立運動記念日の祝辞で日本を「協力パートナー」と呼び内外に衝撃を与えた。日韓関係を戦後最悪にした前の文在寅政権の対日姿勢からみれば大きな転換だ。いくら保守政権だといっても、こと日本に関しては保守も左派もないのが韓国だが、尹大統領の対日姿勢転換には何があったのだろう。

月刊朝鮮(3月号、ウェブ版)に「対日融和でも支持率アップの尹大統領」の記事が載っている。

まず演説の骨子だが、尹氏は「世界史の変化に準備できず国権を喪失した過去を振り返らなければならない」と過去を直視することを求め、今後「世界史の流れをきちんと読まなければ過去の不幸を繰り返す」と戒めた。

その上で日本に対しては「過去の軍国主義侵略者からわれわれと普遍的価値を共有し、安保と経済そしてグローバルアジェンダで協力するパートナーになった」との認識を示した。

この裏にはロシアのウクライナ侵攻による世界情勢の変化、中国の軍事大国化と北朝鮮の核・ミサイル開発による東アジア情勢の流動化などがあり、これらの危機を克服するためには「韓米日三者協力がこれまで以上に重要になった」との認識がある。韓国政府がようやく現実主義に立ってきたわけだ。

こうした思い切った方向転換が可能になった背景には同誌が指摘するように好調な支持率がある。3月6日発表では42・9%で「昨年6月の44・4%以来最高」を記録した。政党支持率でも与党は44・3%で、40・7%の野党を引き離している。野党は「代表のスキャンダル、党内対立の激化」が支持率を落とした原因だ。

尹大統領の支持率が好調な理由だが、同誌は「経済と国民生活への取り組みを続けた影響」と分析した。外交安保よりも経済や生活といった身近な問題が政府評価には強く反映するものだ。

3・1演説については野党やその支持層からは激しい批判を浴びているものの、一般国民の間では数年間続いた「日本ボイコット」への疲れもあり、歴史問題と観光や芸能、文化交流を切り離して考える傾向が対日融和への転換を許しているように見える。

コロナが収束して“解禁”された日本旅行に韓国民が殺到し、日本製品も店頭に戻って来るなど“リベンジ日本消費”が始まった。

こうした転換した空気の上でどれだけ実質的な日韓交流や政府間対話が行われるかが課題で、保守系メディアが韓国で“追い風”を吹かせている間にこの流れが定着するかどうか注目される。

(岩崎 哲)