北問題は「米中代理戦争」 ポンぺオ前長官の回顧録

平壌で握手するポンペオ米中央情報局(CIA)長官(左)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(肩書はいずれも当時)=米政府が2018年4月公表(AFP時事)

【ワシントン山崎洋介】ポンペオ前米国務長官は24日に出版した回顧録で、2018年に訪朝し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(当時は党委員長)と会談した際、正恩氏が、在韓米軍は中国を牽制(けんせい)するために必要だと語っていたことを明らかにした。またポンぺオ氏は、中国が北朝鮮へ強い影響力を行使しているとして、北朝鮮問題は「常に中国との代理戦争」と考えるべきだとの認識を示した。

ポンぺオ氏が正恩氏に、「中国共産党は米国に、金委員長は米軍が韓国から撤退することを非常に喜ぶだろうと伝えてきている」と話すと、正恩氏は、愉快そうにテーブルをたたき、「中国人はうそつきだ」と笑ったという。その上で、正恩氏は、在韓米軍は中国共産党から自身を守るために必要だが、「中国共産党は朝鮮半島をチベットや新疆ウイグル自治区のように扱うために米軍撤退を必要としている」と中国への警戒感を示した。

ポンぺオ氏は、「中国による朝鮮半島の過去の支配の記憶は、この北朝鮮人の心に深く刻まれている」とし、中国が北朝鮮との国境に大規模な軍事プレゼンスを維持していることも指摘した。

北朝鮮との非核化交渉で、中国が常に北朝鮮に強い影響力を行使していたとし、「中国共産党は金委員長にほとんど自由な裁量を与えず、私やトランプ大統領と会うたびに、彼は数日後には習近平氏(中国国家主席)と長い議論を交わした」と強調。「北朝鮮問題は、常に中国共産党との代理戦争と考えるべきだろう」と主張した。

また、回顧録によると、シンガポールでの最初の米朝首脳会談でトランプ氏は、正恩氏を「小さなロケットマン」というあだ名をつけ揶揄(やゆ)していたことについて、英国人歌手のエルトン・ジョンのヒット曲「ロケットマン」に触発され、名付けたと正恩氏に説明。トランプ氏が「素晴らしい歌だ」と述べたところ、正恩氏は、「『ロケットマン』は良いが、『小さな』は良くない」と笑って答えたという。

ポンぺオ氏は、昨年7月に銃撃事件で死去した安倍晋三元首相についても触れ、同氏が「クアッド(日米豪印4カ国の連携枠組み)の父」であり、「中国共産党を脅威と見なした点で先見の明を示した」と評価。「自由で開かれたインド太平洋構想」についても、「外交界で長く通用する用語を作り出した」と称(たた)え、「この優れたリーダーが暗殺されたことは、世界にとって何という損失であろうか」とその死を惜しんだ。