【韓国紙】「安全」で国民引き裂く“政治屋”たち

【ポイント解説】政争の具にする危うさ

セウォル号事件の時、朴槿恵大統領(当時)の「空白の7時間」が野党やメディアから追及された。国民の、それも幼い大勢の中学生たちが犠牲となった沈没事故で、大統領の所在が不明だったことは、救助活動等で直接の指揮を執るわけではないものの、国政の最高責任者が何をしていたか分からないということで、批判を免れないことだった。

だが、これを政局にして政権攻撃の材料にした野党の姿勢にも問題があった。事故の原因究明や事後の安全対策に取り組むのは与野党の隔てなく、政治の責任、役割の一つでもある。それが原因究明や被害者・遺族の救済はそっちのけで、もっぱら政争の道具にした当時の野党の姿勢は「国民不在」と言わざるを得ない。

こうした“前例”があるから、当時の与党の流れをくむ現政権与党も梨泰院事故がセウォル号事故と同じように政権攻撃の材料にされること、つまり「惨事営業」をするなと野党を牽制(けんせい)するのだ。

しかし昌原市市議の書き込みは遺族への配慮に欠け、政争だけに目が向けられていた。社会部記者ならこれを取り上げるのは当然だろう。だが、そのことが被害者遺族に「2次加害」となっていることにまで想像が及ばなかった。「見出しだけでも修正して欲しい」という要請にすぐに応えたのは賢明な判断だった。

だが、この報道をきっかけに他メディアも追従した。遺族は接したくない報道に晒(さら)されることには変わりはない。市議の処遇がこれによってどうなったかは書いてないが、梨泰院事故を政争の具にする間違い、危うさが政治家に伝わったのなら、遺族の不興を買いはしたが、セゲイルボの一報は意味のあるものになっただろう。韓国の政治家を「国際基準」にする一助には及ばないにしても。

(岩崎 哲)