亡命者を北へ強制送還した文政権
月刊朝鮮(7月号)がスクープとして「北送還の2人は脱北者だった」との記事を載せた。北朝鮮人権活動家で「北関連情報が正確だと評価されている」都(ト)希侖(ヒユン)「拉致脱北人権連帯」代表が話している。
都代表は2人が「漁民を殺した殺人者」ではなく、北朝鮮の「元山葛麻(カルマ)地区突撃隊所属の労働者」だと言った。「突撃隊」とは北朝鮮の重点事業へ駆り出される若い労働力のことだ。
都代表が北朝鮮から入手した情報によれば、この労働が死ぬほど辛(つら)く「非人間的な労働環境」で危機を感じたため、待遇改善を要求し金正恩総書記を批判する「檄文(げきぶん)」を書いた。これが発覚して身の危険を感じ、漁船を利用して脱北を試みた、ということだ。
漁船は南へ向かって韓国当局に拿捕(だほ)された。この時、北朝鮮側が船の南下を阻止しようとしていたことが明らかになっている。
当時、文政権は対北融和政策を推進していた。北朝鮮とのもめ事は極力避けたい。加えて、北朝鮮からは「凶悪犯を返せ」と言ってくる。亡命の意思を明らかにしている2人の言を無視し、それどころか「死んでも帰りたい」と作文までして、2人を板門店を通じて送還してしまった。しかも、「凶悪犯罪」の証拠である漁船は「徹底して消毒」してしまい、証拠隠滅まで行う徹底ぶりだ。
都氏は、「もし帰りたいと言っていたのなら、目隠しをされ後ろ手に縛られた彼らが目隠しを解かれ、待ち構える北朝鮮兵士を目にした時、へなへなと座り込んだりするだろうか」と述べている。2人は自分たちが連れて行かれたのが北朝鮮だと知って絶望したことだろう。
都代表は「金正恩の独裁に反対してわが国に逃げた2人の青年を死のどん底に突き落とした反憲法的、反倫理的犯罪」だと当時の文政権の措置を厳しく批判し、「当該事件の核心指揮担当者の身柄を迅速に確保して、事件の実態を明らかにしなければならない」と憤りを隠さない。
当時、文在寅大統領は金正恩総書記に「答礼訪問」の要請を送っており、北朝鮮元首の韓国訪問という“歴史的快挙”を画策していた。南北間でのごたごたは極力避けたかったわけだ。
この件について検察は当時国家情報院院長だった徐(ソ)薫(フン)氏を対象に捜査に入り、また同時に20年9月に起きた「黄海公務員射殺事件」で朴(パク)智元(チウォン)国情院院長も告発している。
どちらも「人権」問題が問われているわけで、これらの指示がトップから出ていたのか、そして「人権派弁護士」だった文在寅氏にまで追及が及んでいくのかが注目される。
(岩崎 哲)



