【ワールドスコープ】欧州に大量流入する麻薬 英仏海峡が密売ルートに

税関職員の買収も明るみに

オランダ・ハーグにある欧州警察機関(ユーロ・ポール)本部

英仏海峡は今、フランスから英国に危険な渡航を試みる不法移民だけでなく、南米などから大量に流れ込む薬物の受け渡し場所としても問題になっている。仏内務省は麻薬密売ルートの解明と組織壊滅に向け、過去にない摘発を行っているが、密売組織にとって欧州は成長市場となっており、さまざまな手段で密輸が試みられている。(パリ・安倍雅信)

英仏海峡に面した仏ノルマンディー地方では、今年2月26日から3月4日にかけて、大量のコカインが入った袋が浜辺に打ち上げられ、当局によって回収された。

関係者の話では、英国市場で売るために南米から運ばれたコカインを防水袋に入れて海上に投下し、密売組織が回収する予定だったとみられている。袋には全地球測位システム(GPS)発信機が装着されていた。発見されたコカインは最終的に2㌧以上になり、末端価格は1億5000万ユーロ(約223億円)に上る。

英仏海峡では4月20日にも、計1㌧以上のコカインが英国海上警察によって押収された。英仏当局は、ノルマンディー地方で押収されたコカインとの関連を捜査している。

また、シチリア沖でも4月中旬、イタリアの海上警察が2㌧のコカインを押収。アイルランドのダブリンでは今月5日、推定価値75万ユーロ相当のハーブ大麻が押収され、2人が密売容疑で逮捕された。欧州に流入する薬物の拡散を物語っている。

フランスでは、新型コロナウイルス禍で薬物の消費量が急増し、政府は対応に苦慮している。密輸業者はあらゆる手段を講じてフランスに薬物を持ち込もうとしている。

仏週刊誌ル・ポワンは、欧州最大の港湾の一つであるベルギーのアントワープ港がコカイン密売の震源地になっていると報じた。同誌によると、税関や欧州警察による差し押さえや逮捕にもかかわらず、税関職員らが買収されており、欧州薬物・薬物依存監視センター(EMCDDA)のアナリスト、ローラン・ラニエル氏は「われわれは犯罪組織の国際化を目の当たりにしている」と指摘している。

ラニエル氏によれば、2015年以降、麻薬の生産量と流通が劇的に増加し、主要生産国はコロンビア、ボリビア、ペルーの3カ国で、特に欧州で急激に消費が加速している。

欧州が世界有数のコカイン市場になった背景について、ラニエル氏は供給者側に欧州で薬物を氾濫させたい意図があると指摘。特に西欧諸国とイタリアが標的となっている。

アントワープ港の税関職員の買収が明るみに出てから、多くの職員が逮捕されたが、コカイン流入は止まらない。密売に関わるのは殺人、拷問、誘拐などに関与する犯罪組織で、ベルギーやオランダに潜伏するモロッコのマフィアの存在が指摘されている。さらにイタリア、セルビア、アルバニアのマフィアの関与も確認されている。欧州警察機関(ユーロポール)は、麻薬密売組織とテロ組織との関連も確認している。

欧州各国では麻薬の消費拡大で中毒者が増え、深刻な社会問題となっている。大麻を合法化するオランダも、犯罪組織によって供給される大麻を問題視している。