増加するバチカン報道  聖職者の性的虐待が契機に 教会の隠蔽体質に変化か

9日、バチカン市国のサンピエトロ広場で「復活祭」(イースター)のミサに集まった人々(UPI)

バチカン発のニュースは公文や声明文がほとんどで一般の読者の関心を引く記事は少なかったが、ここにきて積極的に報道するメディアが増えてきた。直接の契機は聖職者の未成年者への性的虐待事件だ。「バチカン・ニュース」(独語版)が聖職者の不祥事を隠蔽(いんぺい)せずに報じ始めたからだ。最近ではドイツのカトリック教会フライブルク大司教区の聖職者の虐待調査結果を大きく報道して注目された。(ウィーン・小川 敏)

聖職者の性犯罪問題はバチカンにとって恥ずかしい内容であり、できれば内々で解決したいテーマだろう。実際、バチカンは過去、聖職者の未成年者への性的虐待問題を隠蔽し、関係者を異動させて不祥事が外に漏れることを徹底的に抑えてきた。バチカンの官製メディアが、「どこそこの、どの教区で、何件の聖職者の性犯罪が発生した」などと報じることは10年前には考えられなかった。

バチカンの広報・報道活動が閉鎖的だった時代、バチカン関連の情報はもっぱら教会から脱会した元聖職者や彼らが書いた本などが情報源だった。例えば、ウィーンには元神父ルドルフ・シェルマン氏が発行していた「キルへェ・インテルン」と呼ばれるカトリック教会情報誌があった。その点、冷戦時代、ソ連・東欧の共産政権圏から亡命してきた政治家や反体制派活動家から共産圏内の内情を聞き出す取材方法と同じだ。

バチカン報道では地元イタリアのメディアの活躍は大きい。バチカン・ウオッチャーと呼ばれるバチカン専門ジャーナリストがバチカン発でさまざまな内部情報を報じてきた。前教皇ベネディクト16世の内部文書などが盗まれ、報道された「バチリークス事件」では、イタリアの著名なバチカン・ウオッチャーが教皇庁内部の通報者の情報を基に報道し、教皇庁の土台を揺り動かした。

バチカン・ニュースの閉鎖性が破られたのは、アイルランド、米国、オーストラリア、フランスなど世界のカトリック教国で聖職者の性犯罪が次々と暴露され、教会内外から批判が高まり、沈黙を続けることができなくなったからだ。

カトリック教会の性犯罪問題で興味深いのは、最も厳しい批判が、神の義を伝えるべき聖職者が性犯罪を犯したという事実より、教会が不祥事を知りながら「隠蔽してきた」点に向けられていることだ。教会のスキャンダルを隠蔽してきた教会上層部、最終的にはバチカンに、信者ばかりか社会から怒りが高まっていった。フランシスコ教皇が聖職者の性犯罪について、教会指導部への通知義務の強化、教会法に基づく制裁など、教会の隠蔽体質の転換に腐心しているのは当然だ。

その結果、バチカン・ニュースは聖職者の性犯罪問題に関して非常にオープンとなってきた。暴露記事、スクープ記事は期待できないが、バチカン・ウオッチャーにとって有力な情報源となってきたわけだ。

例えば、人口の1%以下のキリスト教徒しかいない日本でもカトリック教会の聖職者の性犯罪問題が頻繁に報じられてきた。バチカンは「秘密の宝庫」と呼ばれてきた。ただ、バチカン・ニュースが依然ちゅうちょしているテーマがある。バチカン指導部内の改革派と保守派間の熾烈(しれつ)な争いだ。

フランシスコ教皇は昨年からスペインやイタリアのジャーナリストとのインタビューに積極的に応じてきた。そこで自身が考えてきた教会の刷新案を述べている。バチカン・ニュースはそのインタビューの内容を伝えることで、教皇庁内の改革派と保守派の争いといった気の重い問題を、自制しながら報じている。