フランスの中国急接近の背景 経済浮上と国際秩序作り狙う

ドイツと同じ轍踏む恐れも

6日、北京で、マクロン仏大統領(右)を歓迎する中国の習近平国家主席(AFP時事)

フランスのマクロン大統領が先週、中国を公式訪問し、異例の歓迎を受けた。今なぜ、フランスは中国に急接近するのか。歓待した習近平国家主席の思惑はどこにあるのか。ウクライナ戦争で国際秩序が激変する中、両国は外交力を駆使して逆境をチャンスに変えようとしているが、思惑通りいくかどうかは不透明だ。(パリ・安倍雅信)

マクロン氏の訪中で最も注目されたのは、ウクライナ侵攻を長期化させるロシアのプーチン大統領についての言及だった。

マクロン氏は6日、習氏に対し「ロシアが理性を取り戻し、交渉の席に着くためにあなたの力が必要だ」と率直に協力を要請した。これに対し習氏は、中仏には「世界の平和維持の能力と責任がある」と応じたという。

習氏は先月21日にモスクワを訪問し、プーチン氏と会談したばかり。マクロン氏と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長の訪中は、中国のロシア接近の懸念が高まる中で行われた。同委員長は訪中前、「対中デカップリング(切り離し)は実行不可能で、欧州の利益にならない」と述べていた。

その一方で、フォンデアライエン氏は先月末、中国が軍事力増強と国内統制強化の強硬姿勢を見せていることに対し、「外交・経済的にリスクを減らす必要がある」とも述べ、中国依存を減らす「リバランス」の必要性を主張。さらにウクライナ戦争終結のため、ロシア軍の撤退を義務付ける「公正な平和」を示す義務が中国にはあるとも述べていた。

ロシアのウクライナ侵攻を非難しない中国に対し、EUはこれまで何度も不快感を表明してきた。今回の訪中でもフォンデアライエン氏は、中国がロシアに武器を供与すれば、EU・中国間の関係は著しく損なわれるだろうと警告した。

習氏はマクロン氏との会談後の記者会見で、「核兵器は使われてはならない」との認識を示したが、中国の対露外交の具体策は明らかにされていない。一方、人権重視のEUにとっては少数民族ウイグル族弾圧問題など見過ごせない課題があるが、マクロン氏は今回、「非難よりも敬意を表す」道を選んだと説明し、関係強化優先の意向を示した。

今回のマクロン氏の訪中は、ウクライナ戦争で世界の勢力図が激変する中、世界の枠組みづくりで主導権を握りたいフランスにとって、気候変動や国際テロなどのグローバルな課題に中国の協力は欠かせないとの判断があることが指摘されている。

国際社会における米国のプレゼンスが弱まり、米中関係の悪化が続くタイミングで、フランスが経済浮上のために中国との関係強化に舵(かじ)を切ったのは明白だ。加えて年金制度改革で支持率を落としているマクロン氏にとって、外交得点を上げる機会にしたかったとの見方もある。

だが、仏メディアは、マクロン氏の目論見(もくろみ)は容易とはみていない。長年、東方外交でロシアや中国と経済関係を深めてきた隣国ドイツは、ウクライナ戦争で軌道修正を強いられている。マクロン氏もドイツと同じ轍(てつ)を踏む可能性もある。

マクロン氏はフランスの主だった財界人約50人と芸術関係者などを伴って訪中し、仏中経済協力協定を結んだ。フランス側の発表によると、仏航空機大手エアバスが中国航空器材集団から160機を受注、仏電力公社EDFと中国国有の国家能源投資集団は海上風力発電分野での協力で合意した。フランスは中国からの輸入依存度が高く、対中貿易赤字が膨らんでおり、今回はフランス製品の売り込みに余念がなかった。

一方、ウクライナ侵攻で孤立を深めるロシアを見ている習氏としては、対米関係が厳しさを増す中、EUとの関係強化は願うところだ。米国とは一線を画した外交姿勢を見せるフランスが、中国との独自パイプ構築にシフトしてきたため、習氏は異例の2度の夕食会でマクロン氏を歓待した。

習氏は今回、「同じ多国間主義を共有する両国」という言葉を使った。中国は多国間主義を隠れ蓑(みの)に利用し、米国の攻勢に対抗しようとしている。中国は途上国への投資で味方を増やしているが、国連安保理常任理事国のフランスと関係を強化する意義は大きい。だが、マクロン氏が踏み出した道のリスクの大きさも否定できない。