ウクライナ、欧州に試練の冬 EU、今年2・6兆円規模の支援

昨年12月12日、ブリュッセルで開かれた欧州議会(EU)の外相理事会(EPA時事)

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して10カ月以上が経(た)った。当初、電光石火の攻撃で首都キーウを占領しようとしたロシア軍は、ウクライナ軍の激しい抵抗に遭い、戦闘はドンバス地方東部の盆地とその南部農業地帯に移った。

ロシアは、ウクライナ全土の電力施設などライフインフラへの攻撃を強め、長く寒い冬を耐え忍ぶウクライナ国民を震え上がらせている。一方、ウクライナ側は昨年12月に入り、モスクワ南東リャザン州リャザン市近郊のディアギレボ空軍基地をドローン攻撃し、さらにウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロドの地域を砲撃した。

ロシアがキーウへの攻撃を激化させ、ウクライナも欧米諸国から供給される兵器に頼りながら反撃し、終わりの見えない戦争が長期化している。ロシアは民間軍事会社・ワグネルなど手段を選ばない残虐な民兵組織によるウクライナ市民への拷問や虐殺が確認されており、戦争は泥沼状態にあるが、外交解決の糸口は見えていない。

欧州連合(EU)は12月16日、9回目となる対露制裁措置を実施し、ボレルEU外務・安全保障政策上級代表外相は声明で「われわれは、この残忍な戦争で決定的な役割を果たしている人々を引き続き標的にする」と発表。資産凍結などの制裁対象をロシア政府閣僚12人と下院議員42人、ロシア連邦憲法裁判所のトップと9人の裁判官などに拡大した理由を説明した。

一方、EUは追加制裁として英国を含む主要7カ国、オーストラリアと連携し、ロシアの戦争の資金源となるロシア産原油の取引の上限価格を導入した。原油輸出はロシアの最大の収入源だが、中国が価格の上限よりかなり安価で輸入するなど効果が疑問視されている。実際、ロシアが財政危機に陥っている可能性は確かめられていない。

EUは12月15日に開催された首脳会議で、ウクライナに対して2023年、総額180億ユーロ(約2兆6000億円)を支援することで合意した。主に復興資金に充てられるとされているが、EUも一枚岩とは言えず、対露制裁強化を望むバルト3国やポーランドなどは、ウクライナを支援することで自国がロシアの標的となることを懸念する国が少なくないことを批判している。

EU加盟国のクロアチアは、EUの打ち出す対露制裁の効果を疑問視し、約1万5000人のウクライナ兵の軍事訓練に協力しないことを議会で可決した。クロアチアは北大西洋条約機構(NATO)のメンバーでもある。また、武器供与を続ける加盟国全体で自国防衛のための十分な兵器が不足する懸念も広がっている。

一方、ドイツは昨年6月、軍備増強に向け、国防費として1000億ユーロ(約14兆円)の特別資金を拠出するための法案を可決した。ドイツの国防費はNATO加盟国が目標とする国内総生産(GDP)比2%超に拡大する方向にある。

ドイツは軍備品の近代化、ウクライナへの兵器供与とともに、原発ゼロの見送りなど、ウクライナ紛争によって最もEUで政策変更を迫られた国だ。ロシア産天然ガス依存度が高かったドイツは、ガス供給元の多角化で初めての液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設し、新たな輸入ルートを開拓中だ。

欧州はウクライナ紛争により、エネルギー不足に陥り、エネルギー価格の高騰による経済活動も市民生活も厳しさを増している。対露制裁の代価は大きいだけでなく、対ロシア戦争に引きずり込まれることに細心の注意を払いながら、出口が見えない戦争で寒い冬の我慢が続いている。(パリ・安倍雅信)