露のスパイ活動に欧州警戒 独情報機関員が機密提供か

隣国オーストリアでも発覚

ドイツの情報機関「連邦情報局(BND)」=2020年5月、ベルリン(AFP時事)

ドイツで21日、首相直属機関の情報機関「連邦情報局(BND)」の上級職員が、ロシアに国家機密を漏らしたとして反逆容疑で逮捕された。隣国オーストリアでも19日に、39歳のロシア系ギリシャ人が国家機密をロシアに流していたことが発覚したばかりだ。一見、両事件は発覚時期が近いだけで無関係のようだが、共通点もある。(ウィーン・小川 敏)

まずドイツのケースだが、逮捕された「カルステン・L」容疑者は、BNDで同盟国の情報機関から得た最高機密に接することができる立場にあった。世界中から集まってきた盗聴情報などを分析する責任を持っていたのだ。

L容疑者はロシアのためにスパイ活動を行い、ロシア諜報機関に情報を送信していた容疑で逮捕、拘留されている。連邦検察庁は「反逆罪の疑いがある」としている。

反逆罪とは、国家機密を不法に流すことでドイツの安全保障に重大な損害を与えた事例を意味する。ブッシュマン法相は「警戒しなければならない犯罪だ」と述べている。

容疑者が入手した資料には、米国家安全保障局(NSA)や英政府通信本部(GCHQ)からの機密情報も含まれていたと思われる。それ故、容疑者を通じて米シークレットサービス(大統領警護隊)の情報をロシアが入手していた可能性が出てくるわけだ。ハベック独経済相が「特に心配している」と憂慮したのは、産業スパイに対する防御に関連する情報もあるからだ。

ブッシュマン法相は今回のBNDの対応を評価し、「疑惑が確認されれば、ロシアのスパイ活動に対する重要な打撃となるはずだ」と指摘した。

BNDのカール長官は、事件について「現時点でこれ以上の情報公開はできない。捜査内容の詳細を公にすれば、ドイツを傷つけようとする意図を持った敵国を利するからだ」としている。

オーストリアでも、ロシアのスパイ活動が発覚したばかりだ。オーストリアの諜報機関によると、39歳のロシア系ギリシャ人がロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)のために数年間スパイ活動を行い、国益を害した疑いが発覚したという。容疑者は、外交官としてドイツとオーストリアに駐留したことのある元ロシア諜報機関職員の息子だ。

容疑者はロシアで特別な軍事訓練を受けた後、GRUのために働き、さまざまな国の外交官や情報当局者と接触していた。容疑者はほとんど収入がないのにもかかわらず、2018年から22年初頭までに計65回、オーストリア国内外を旅行していた。他の欧州諸国だけでなく、ロシアやベラルーシ、トルコ、ジョージアにも投資し、ウィーン、ロシア、ギリシャで幾つかの不動産を所有しているという。

オーストリアの対テロ特殊部隊「コブラ部隊」は今年3月、ウィーン市22区にある容疑者の拠点を襲撃し、信号検出器、聴取装置、防護服、携帯電話、パソコン、タブレットなどを押収、そこから数百万件のファイルが見つかっていた。

ところで、排除できない可能性は、オーストリアで逮捕された容疑者がドイツBNDのL容疑者と接触していたことだ。もしかしたら押収されたファイルから情報提供者としてL容疑者の存在が浮かび上がったのかもしれない。

いずれにせよ警戒しなければならないのは、ロシア軍のウクライナ侵攻以後、ロシアの治安機関の活動が強化されていることだ。

ロシアのプーチン大統領は19日、治安部隊に対し、「外国の諜報機関の行動は直ちに鎮圧されなければならない。裏切り者、破壊工作員、スパイは捕まえなければならない」と強調し、スパイ活動の強化とともに外国スパイ活動の撲滅を命令している。

蛇足だが、欧州で暗躍するロシアのスパイは4人に1人がウィーンに拠点を置いているとされる。ロシアのスパイは、中立国で国際都市のウィーンを愛している。舞踏会のシーズンとなれば至る所でワルツが流れるウィーンだが、ロシアのスパイたちはワルツに乗って息を潜めながら舞い続けている。